こんな結末に
好きかもしれない。
確かに今まで好きになったり憧れたりした男性はいたけれど、他の人に渡したくないとここまで独占欲を狩られた事はなかった気がする。
もちろん失恋して、その日は一日森に入って熊と格闘したり魔物を倒したりしてその振られた怒りを発散させていたが、その次の日には忘れちゃおうとなっていた気がする。
だけれど私は多分、シリルを失ったらしばらくは立ち直れないかもしれない。
よくシリルが私に怪我をしたらと言っていたけれどそれは私も同じ気持ちなのだ。
私にいい子で屋敷で待っていてねと言われたけれど、胸騒ぎがする。
私自身が何の力もないのなら足手まといにはなってしまうかもしれない。
それならば、私は大人しくここで待ちながら、シリルの邪魔にならないようにと自分の無力さを悔やんだだろう。
けれど私の場合は違う。
少なくともシリルが認めるくらい私には力がある。それに、
「メイドには必殺技が必要だ、という事で同時に組み立てた特殊な魔法もあるしね」
ここに来て教育された魔法をアレンジして、必殺技を私自身が編み出していたのだ。
切り札とも言える必殺技で、これを一撃に込めて敵を抹殺する物ではあるのだけれど、
「使うと魔力がほとんどなくなっちゃうんだよね」
試算した私の魔力量と、この魔法で必要な魔力量を計算すると大体そうなる。
但し破壊力は抜群だ。
もう少し威力を弱めた物でもよかったかもしれないが、そうすると既存の物で済んでしまう。
それでは必殺技の意味がない。
「よし、これさえあれば絶対に手伝えるし。見に行って大丈夫そうだったら、ばれないようにこっそり戻ってくればいいだけだし」
そうは思いはするものの、シリルにばれないようにするのは大変だよなと思いながらも、シリルは本当に大丈夫だろうかという不安はずっと付きまとっているのだ。
だったら私にできる事があるのなら、やりたい。
後悔する前に全部やってから、後悔する。
私はただ大好きなシリルの手伝いが出来るならそれでいいと思う。
「うん、そうだよね」
こんな風に考えてしまうのは、シリルが怒るかなという不安と、さらに巨大な敵が現れた様な先ほどの轟音と、巨大な影もあるのだろう。
一番いい方法はここに残るか逃げだすかして、自分の身の安全をはかる事だけれど、
「私には力があるから、これで少しでも手伝えるならそれでいいわね」
自分を鼓舞する様にそう私は呟いて、自分の部屋の窓から少しでも人目がつかないように外に出て、走り出したのだった。
シリルは失敗を悟った。今日の水族館は平和で過ごすために、とことん追い詰めておいたのだがそれが裏目に出たらしい。
“竜の眠る玉”はまだあったらしく、最後にそれを使われてしまった。
たまたま周辺から住民を避難させておいたのが功を奏したらしい。
だが、自分ともあろう者がどうしてこんなミスをしたのかとも思う。
けれどそんな後悔は即座に頭の隅に寄せて、
「“水の剣”」
小さく魔法の呪文を唱えて、魔法を放つ。
柔らかく柔軟なからも固い水の剣は形を変え、刃となって降り注ぐ。
けれどそれらはs具に赤くチロチロとした炎で防がれてしまう。
魔力がぶつかり消失して、水の形態が変化させられてしまうために炎の魔法の前では水の魔法は威力が半減してしまう。
嫌な力を使ってくるとシリルは舌打ちした。
もしもの時のためにあげておいた情報からすでに軍も介入してきており、王宮の強い力を持つ魔法使い達も参加している。
けれど目の前に現れた赤や青、緑といったように輝く白い竜は手ごわい相手だった。
「“無属性の竜”ね。アルベルク、あんな物がいるって知っているか?」
「いいや、そんなものは知らない。兄から聞いた範囲では。そしてドラゴンはそこそこの知能を持っているからあんな、“赤ん坊”の様に町を破壊したりはしないな」
「お兄さんからの情報か?」
「そうだ。……ここで兄さんがいればもう少しいい方法が見つかったかもしれないが……“炎の矢”」
そこでアルベルクが炎系の技を使えば、風に吹きちらされる。
全ての属性を兼ね備えたドラゴン、そんな物は見た事も効いた事もない。
そんな敵相手に攻撃を繰り返す。
「一応は僕達がこの都市で一番力があるはずだよね」
「あのフルールの方が上なんじゃないのか? 話を聞いた範囲ではそう思ったが」
「……フルールはただの僕のメイドだよ」
「こんな時くらいは手伝ってもらったらどうだ? このドラゴンの場合生半かな攻撃では倒せそうにない。攻撃をするならば一気に強力な一撃を加えて、防御を打ち崩して本体に届かせないといけないのでは?」
そんなアルベルクの提案を聞きながら、“白い竜”の攻撃してきた炎を避けながらシリルは考える。
「防御が強いからと言って、その守っている本体が壊れにくいものかどうかは別か。確かに現状ではすべてを防がれていてしまうから攻撃するのもてか」
「そう攻撃するなら危険も少ないしフルールに手伝ってもらったらどうだ?」
「フルールはまだ自分の力を全力でだしきる能力しかないから駄目だよ。上手く隠す方法も、もしそうなったときどうその危機を乗り越えられるかもまるで考えていない」
「……まああれだけの力は危険だからな。知られるのは厄介か」
「出来るだけ他の人間の目に触れさせたくない。フルールの力を知って誰かが利用しようとすると困るから」
「そう言っていられる状況なのか?」
「……いざとなったら誤魔化していた奥の手を使うから良いよ」
「切り札か?」
「切り札は普段使えない様な弱点があるから、使うならじり貧の状態だね。でもまだそこまでじゃない。だから僕は、複数ある内の奥の手を一つ使う」
「その力を使えば、被害は最小限で倒せると」
「多分ね。でもその後の処理が色々と面倒臭いんだけれどね。なにしろ僕が、そんな強い力を持っているなんて誰も知らないわけだし」
そこで炎の攻撃を更に打ち出しながらアルベルクが、
「それで今までその奥の手を俺や兄には見せたのか?」
「いいや、一度も見せてないよ」
「相変わらず嫌な奴だなお前は。お前が慌てたりがっかりする顔に、何時もの余裕のある表情が変わるのが見たかった部分もあるんだが、あのフルールのおかげで全部見れたのでそれは達成できたかな」
「……そう考えるとフルールは凄いよね。この僕をここまで変えるわけだし。でもそれはアルベルクも同じでしょう?」
「なにがだ?」
「真面目に戦っているんじゃないか」
「……カタリーナに屋敷で待っていろと言った手前、俺だって頑張らないとな」
「カタリーナの魔力もとっても強いんだよね~」
先ほど言われた言葉を返すシリルにアルベルクが嫌そうな顔をして、
「分かったよ、俺が悪かった」
「分かったならそれでいいです。さてと、じゃあとりあえずは一緒にちょっと強めの攻撃でも加えてみますか?」
「お前と一緒というのは気に喰わないが、シカタガナイナ」
そう答えてアルベルクとシリルは攻撃しようとして、そこでとても見知った人物の声が聞こえた。それにシリルが真っ青になって空を見上げると、
「ひっさーつっ、“風の竜巻”」
声のした物体、それは空高く飛びその影は黒いメイド服を纏っていて……シリルはそれをすぐにフルールだと気付いた。
そのフルールの影は白いドラゴンの頭上にまで飛び上がったかと思うと、そのまま蹴りを入れる様に落ちてきて、同時に周りに風が吹き荒れて……。
ばちんと何かがはじける音がした。
同時に轟音と竜巻の様な物にフルールが包まれて、それが白いドラゴンを貫いていく。
全ては一瞬の出来事だった。
茫然と棒立ちになるシリル達を尻目に、そのドラゴンが大きな悲鳴の様な咆哮を上げて、煙に包まれる。
真っ白な煙がもくもくと包み込んだかと思うと数秒後には強い風が吹く。
その強い風の後にはドラゴンのいた中心部に立っていたのは、黒いメイド姿のフルールと、
「ドラゴン? それも子供の」
シリルはその光景を見ながら呟く。
そこには、四色のドラゴンがわんわん鳴いている。
どうやらあれが白いドラゴンの本体であるらしい。
特に害はなさそうだけれど、とシリルはぼんやりと考えた。
そこでポンポンとアルベルクがシリルの肩をたたき、
「で、あれはどうする?」
指をさすアルベルクにシリルが、頭痛がしたように頭を押さえて俯いたからもう一度それを見て空を仰いだ。
結局都市を壊滅の危機に陥れたドラゴンは、ぽぽぽんと四匹の小さな子ドラゴンに別れた。
どうやら竜の赤ん坊を組み合わせて作った合成されたドラゴンであったらしい。
またそれらは、アルベルクの兄がどうやら誘拐されたドラゴンの子供を探す旅に出ている最中なので、どうにか連絡を取り後で引き取りに来てもらうらしい。
それまでは、シリルの屋敷が一番皆が落ち着くだろうという事で、シリルの屋敷で、私が面倒をみる事になりそうだ。
だがそれよりも問題がまた一つ発覚した。
それは私が必殺技を用いてあのドラゴンを倒した後の事。
「君は一体何者かね?」
何だか偉そうな人だな~と思ったら軍部の偉い人だったらしい。
どうやら私があのドラゴンを倒したのを見て話しかけてきたらしい。
けれどそんな私と彼の間にシリルが入り込み、
「この子は僕の恋人兼メイドです」
「おや、そうなのか。なるほど……これだけの実力があるから、囲い込みを?」
「ええ。ただ今回のドラゴンの場合は上層部からの攻撃が一番弱かったので上手くいっただけだと思います。この子の能力は僕が一番知っていますから」
「なるほど。こういった時のためにと強い力を持つ花嫁を、と」
「はい。ただまだまだ未熟なので教育中だったのですが、今回は心配のあまりに勝手に増幅装置などをつけて攻撃してしまいまして。その辺りは僕の管理不届きです」
「……ではその件に関しては別の書類を。なにせこんなドラゴンを一撃で倒す怪物のような女性がウロウロしていては危険だからな。幽閉するかといった感じになってしまうな……」
私はその話を聞いてえっとなってしまう。
どうやら私が強い力を持っているけれどとても危険な存在らしい。
けれどシリルが上手く誤魔化してくれたからそうならずに済んでいるようだ。
「シリル様、あの、私、そんなに強いんですか?」
「うん、魔力だけなら僕もかなわないレベルかな?」
「そ、そんなに……やっぱり必殺技も含めてこれ位じゃないとメイドはいけないですよね!」
確かメイドってこういう物だったような気がするし、だからシリルも教育したのだろうなと私は思ったのだ。けれどそこでシリルは私の肩を掴み、
「本当は身を守れる程度と思って教育しただけで、フルールに才能がありすぎて先生が調子に乗って教えてしまったんだ」
「……あ、えっと、私、そんなに才能があったんですか?」
「うん、辺境に幽閉されるくらい」
そう言われた私は、別な意味で危険だったと気付いた。
シリルを少しでも手伝えたらいいと思ってした行動は、私の人生を大きく左右する物であったらしい。そこでカタリーナが割り込んで来て、
「でもフルールとっても行動的ね。私は大人しく屋敷で待っていたのに。やっぱり私も参戦すれば良かったかしら」
切なげな溜息をつくカタリーナにアルベルクが、
「だが戦闘系はあまり得意でなかったのでは?」
「その分毒薬系や、捕縛といった補助魔法、防御魔法が私とても得意なのよね。アルベルクは身をもって知っているでしょう?」
「……だが防御魔法が強くても、攻撃できなければ邪魔なだけだ」
「あら、私は邪魔だとでも言うつもり?」
「ああ邪魔だね。何時怪我するか気が気じゃないからな」
「あら、心配してくれるの?」
「それは、まあ……彼女だし」
それを言った瞬間アルベルクにカタリーナが抱きつく。
アルベルクは焦った様に周りを見てから、すぐにシリルのにまにま顔を見てむっとしたようにカタリーナを抱きしめた。カタリーナはいつもと違って幸せそうに微笑みながら、アルベルクに抱きついている。
その様子をほのぼのと見ていた私にそこでシリルは振り向き、
「フルール、これ以上勝手な行動はしてはいけないよ?」
「わ、わかっています。そんな怖い顔しないでください」
何時になくシリルが怖い顔をしていたので私は即座に頷いたけれど、それにシリルはすぐには願して、
「よかった。うんて頷いてくれないと別荘に監禁しちゃうところだったよ。何しろ約束破って戦いに来るくらいだしね」
微笑みながらさらっと危険な台詞を私は告げられる。相変わらずの笑顔で告げてくるあたりがシリルの本気を感じて唇の端が引きつるのを感じながら、
「え、あのシリル様? 冗談、ですよね?」
「冗談を言っているつもりはないかな。怪我をしないで欲しいからそういったのに勝手に出てきちゃうし、実力見せちゃうし。誤魔化さなかったら一生飼い殺しだよ。まあ、辺境で鉛筆を回す優雅な生活になるだけだけれどね」
「う……そうなるのは遠慮したいです」
あのまま行くと辺境で延々とだらだらと生活させられるらしい。
優雅といえば優雅だが、そんな老成した人生は私は嫌だ。そんな私にシリルは、
「だからこれからはもう少し僕の言うことを聞いてよね。僕にとってフルールは大切な女の子なんだから」
「……はい」
そう素直に頷く。何だか愛されているなと思ってとても幸せな気持ちになってしまう。
そうやってちょっと幸せな気持ちになっているとそこでアルベルクとカタリーナが私の方を見てカタリーナが
「ふふ、何だか心配して疲れてしまったわ。フルールのケーキが食べたいわ」
「俺も運動したから甘い物が欲しいな」
そんなカタリーナとアルベルクに、即座に私はでは早速紅茶の準備をと答えるとそこでシリルが、
「二人共くっついたんだからもう僕の屋敷に来なくてもいいよね?」
「あら、フルールのお菓子目当てでここに私はこれからも来るわよ? アルベルクも連れて」
「……邪魔してやろうか」
「あら、そういうとフルールを口説いて、私専用のメイドになるようそそのかすわよ?」
「! く、ようやく上手くいった所で面倒な要素は増やしたくない。唯でさえ四匹のちび竜が手に入ったのに」
「あら、そういえばあの竜の面倒をフルールが見るんだったかしら?」
「そうだよ、ちび竜はフルールしか懐かないし」
恨めしそうに私を見るが仕方がないのだ。
あのちび竜は倒した私にしか懐かなくて食べ物も食べないし。
嘆くシリルに、それも楽しいかもと告げて私は紅茶の準備をしに行く。
それこそいつものように。
けれど今はシリルとようやく恋人同士になったばかり。
そう考えると私は頬が熱くなる。
だから走る私は、これからいつもの日常は始まるけれど、それはきっともう少し甘くて楽しい物になりそうな予感がしたのだった。
おしまい
ここまで読んで頂きありがとうございました。多分その内文字数的な意味でも番外編を追加するのでよろしくお願いいたします。




