気づいているんじゃないかな
やってきた場所は雑貨やアクセサリーのお店が並ぶ場所だった。
今は馬車が通行禁止になっているので路面に布をひき、アクセサリーや雑貨を売っている。もう少し先に行くと、フリーマーケットの会場があるらしく、場所を示した紙が目抜き通りの入口に置かれていた。
本日は晴天なのもあってか、人が多い。
女性が多めだが、それでも恋人同士の人達が腕を組んでいる姿を多々みかける。
この場所には以前私も友達と来てアクセサリーを見て回ったり、途中でアイスクリームを購入した記憶がある。
そのアイスクリームのお店はソフトクリームに、ティラミスなどのケーキをトッピングするサービスもしていて、あの時食べたほろ苦く柔らかいスポンジと口どけのいいチーズクリーム、そしてココアの風味が絶品なティラミスは今でも忘れられない。
けれど今は恋人役なのでそれは我慢と思っていると、シリルが私の手を握ったまま立ち止まる。
どうしたんだろうと思っているとそこには高級な宝飾品のお店がある。
ここは特に真珠を扱ったアクセサリーが有名なお店だ。デザインも斬新で、私自身もいいなと思ったものが幾つもある。けれど値段が高くて手に入らなかった物だ。
そして今こんな場所に連れてこられそうになった私は、はっきり言って焦った。
「シリル様、私のお給料ではちょっときついです」
「買ってあげるから安心しなよ、何が欲しいの?」
「い、いえ、恋人役だしそこまで……」
焦る私を見て、シリルは目を瞬かせてから私に微笑み、
「フルールは無欲だね。でも欲しい物がある時は欲しいって自分から言わないと貰えないんだよ?」
「べ、別に私は十分足りていますし」
「そう? 困ったな、今日はここに行くつもりでデートコースを設定していたんだけれど」
そこで私は気づいた。
シリルほどの貴族ならばこういった所にも出入りするのかと思う。
となるとデートコースとしてはこういった場所に入ることは有るだろう。
それならばここに行くしか無いのではないだろうか。
「格好はこれで大丈夫かな?」
「大丈夫だよ? 何だ、そんな事を心配していたんだ」
「そ、そんなことって言ったって、こんなお店、ショ丨ウインドウしか見ていないし」
「見るくらいには興味があるみたいだね。じゃあ行こうか」
シリルが楽しそうに答えて私の手を引いていったのだった。
結局何だか凄い物を買ってもらってしまった。
大丈夫かなと不安に思ってしまうのは、私が貴族と無縁の生活をしているからか。
物語でヒロインが、相手役の気属などにプレゼントを貰って驚いていたりするのがよく分かる。
これはきつい。
とてもきつくて大変である(精神的な意味で)。
貴重なものを貰って嬉しいと素直に喜べないのは、私が仮の恋人だからか。
もしも本当の恋人になれば、と一瞬よぎるけれど自分と彼とは“違う”と思う。
だからそんな夢見がちな未来を考えちゃ駄目だと思って私は店を出る。
店員がこのお店のドアを開いてくれる辺りで、普通のお店と違う。
そして折角だからつけてみたらとシリルに言われて付けているペンダント。
できればつけてほしいなとシリルに言われたからだ。
だから他に他意はなくて、えっと……。
「やっぱりこんな高級なもの……」
「別に僕はフルールに貢ぐんだったらそれでいいよ?」
「貢ぐ!?」
「なんてね。慌てるフルールが凄く可愛かったから、それもお礼」
シリルが誤魔化すように笑って私に告げる。
それを聞きながら私は、弄ばれている気がしてムッとしてしまう。
「いいですかシリル様、それは恋人の女の子にいって駄目ですよ? 本当じゃない仮の恋人の私だからそれは許されますが」
「うーん、そうだね。うん……」
シリルは苦笑してそう答えてから少し考えて、私を見る。
探る様にじっと見つめて、その様子に私は何となく私自身が一番暴かれたくない感情を探られている気がする。
私はメイドなのだ。
シリルと違う、ごく普通の女の子で、だからきっと私は夢を見るだけで終わらせないといけないのだ。男性アイドルにあこがれるのはいいけれど、本当に結ばれたいとまで思うほど、夢見がちではないのだから。
なのにそう思うたびに心が締め付けられる気がして先ほど貰ったペンダントに目を落とす。ペンダントトップは三種類の色の真珠が付けられ、シリルと同じ空色の四角い宝石が付けられている。他にも赤や紫、緑、黄色などの石がはめ込まれた物があったけれどその中でこれを選んだのは……ただの、偶然。
その時何となくこれが良いかなと思っただけで、それ以上の感情はない。
私は別にシリルの事はご主人様以外に何とも思ってない。
けれどシリルのその瞳を見ていると私は不安になる。
シリルがどんな人物なのかを私は間近で見ていたから知っている。だから、全部見抜かれてしまっているんじゃないかと、心の中で囁きが聞こえる気がする。
そこでシリルがにっと笑い、私に語りかける。
「フルールは、本当は気付いているんじゃないかなって僕は思うんだ」
私の胸が早鐘の様にうつ。
でも気付かれるはずかない。気付かれてはいけないと思って私は平静を装い、
「何がですか?」
「フルールを僕が本当に好きだってこと。そして本当は“逃がして”欲しいんじゃないかって。でも、逃さないよ?」
「シリル様?」
嫌な感じがしてそう不安を覚えて聞いてしまう私だけれどそこでシリルが、
「やっぱり誤魔化すのもそろそろ僕もきついから、とりあえず……もう一度言うよ。恋愛感情で僕はフルールが好きだよ」
「……」
「じっくり考えてでいいから答えが欲しい。もう誤魔化してあげられないや、フルール。ごめんね。そして君を他の職場で働かせるつもりもないから、それだけは覚えておいてね。……さてと、じゃあフルール、ご飯を食べに行こう」
何て事のない話であった様にシリルが告げて、私はそのまま今の話に呆然としながらもシリルに連れて行かれたのだった。




