やけに切なげに聞こえたのだった
しゅわしゅわとした炭酸飲料。
“アセラーナ”という赤い酸味のある果実をシロップと炭酸で割った物が私の目の前にある。ちなみにシリルは、“ブルーフルーツ”と呼ばれる青い果実で、酸味が少なく独特の香りがする果実をこちらも炭酸とシロップで割った物である。この果実はお酒につけて香りを引き出して、ケーキに混ぜたりかけたりして香り付けをするのにも使う。今度はそのケーキにしようかと私が決めていると、シリルが私の飲み物を見て、
「フルールは昔からそれが好きだよね」
「へ? あの……シリル様、昔私と何処かでお会いしたのですか?」
その問いかけにシリルは少し黙ってから小さく笑う。
「いい加減黙っていても仕方がないかな。これもいい機会だから話しておくよ。フルールは昔、避暑に来た双子の美少女にあった記憶はあるかな?」
そんな事があったっけと思って私は記憶の中を探っていく。
そういえばとても綺麗な金髪と銀髪の双子と、一時期遊んでいた気がする。
フリルのついたドレスも可愛くて、綺麗な子達だと驚いた様な……あれ。
「シリル様とカタリーナ様に似ている様な。でも双子って言っていたし」
「うん、あの時はそういった設定だったから。それにフルールもうち解けてくれていたし」
「あの子供の頃から女装……そしてどうして私はまたも見抜けなかったんだろう」
「僕は美しいから仕方がないね。でね、本当はフルールが都市に来たり、お菓子のお店で働いているのは知っていたけれど……あの路地に引きこまれた僕を助けてくれて再会した時、僕、すぐにあの時のフルールだって分かったんだ」
「だからメイドに? というかどうして私が働いているのを知っていたのですか?」
その問いかけにシリルは苦笑して、
「気に入っていたから、何となく調べたらたまたまフルールが都市に来ようとしているのを偶然知って、本当はその時会いに行こうと思ったけれど……フルールの生活を邪魔したら悪いかなと思って、会いに行けなかったんだ」
「別に会いに来てくださればよかったのに」
「そうだね、今はそう思う。でも再会した時は驚いたね。フルールはあの頃と全然変わっていなくて」
「む、子供っぽいといいたいんですか?」
「いや、あの頃と同じ……僕にとってはフルールは魅力的な女の子だなって再認識させられたかな」
微笑まれて、私は頬が熱くなる。
だからこうやって口説かれている気になるのは困る。
私はそう凄く困ったと思ってそこで……どうして困るのだろうと気付いた。
だってそれは、私をシリルが好きだから口説いてきていると勘違いしそうになるからで。
いやいや、平常心平常心。
とりあえずは口説かれて嬉しい恋人役に徹しなければ。
私は心の中で焦りながらも、そう繰り返す。
「そうやって言ってもらえるのは嬉しいです。それでその話は恋人役の私を口説くための作り話ですか?」
「違うよ。フルールは僕の事、シ―ちゃんて呼んでいたし」
「……確かにシーちゃん、リナちゃんと呼んでいましたね」
「酷いよ、僕の大切な記憶を疑うなんて」
「いえ、シリル様の事はずっとあの当時は女の子だと思っていましたので。まさか時間が経って会ったら、男になっていたとかどう考えてもおかしいでしょう」
「そう言われると言い訳できないね。でも僕、フルールと再会して、フルール以上に好きになれる人がいる気がしないのは本当だよ?」
「……シリル様、本当に好きで口説かれている気がします。ちょっとこれ以上はきついです」
「それはもう少し口説いたらフルールは僕に恋に落ちてくれるってことかな」
「からかわないでください」
「からかっていないよ。僕にとってフルールはとても魅力的で、異性として大好きなんだ。それは……」
けれどそこまでいった所で、近くで爆音が聞こえてそして、
「魔物の檻が壊れたぞ!」
同時に悲鳴と、何処かで見た様な人影が見えたのだった。
以前私を攫った事もある“翡翠の涙”に似た物を感じる彼らが数人。
雰囲気が彼らにとても良く似ている。
その数人が魔物の檻を開けているようだった。そこにいたのは二股の私の身長の三倍は有るかのような巨大な黒い蛇で、風を操るらしい。
周囲に渦巻く風がその証明だ。
大抵の魔物は、人間と同様に一つの属性しか操ることは出来ないので、風の魔法を扱うだけのものなのだろう。私と同じ風の力を使うのなら、魔力が強いほうが勝つ。それが道理だと、いざとなれば必殺技を使おうと思いながら私は駆け出そうとしてシリルに引き止められた。
私の手を握りシリルが嘆息したように立ち上がり、その魔物に向かっていこうとするので、
「シリル様、危ないです。お逃げ下さい」
「フルール、僕の心配をしてくれているのは嬉しいけれど、それは僕の力を侮りすぎかな?」
シリルが私にそう言って、今まで私に見せた事のない様な酷薄な笑みを見せる。
こんなシリルは私は知らない、そう思っているとそこで見知った人物の声がした。
「よくもそこの魔物は私がフルールと一緒にいてシリルがデレデレしているのを見る楽しみを邪魔したわね! アルベルク、やっちゃって!」
「ああったく、だが俺の方が感謝されるわけだからまあいいか」
突如現れたカタリーナが、というか先ほどから隠れていたカタリーナが現れてアルベルクをけしかける。
同時にアルベルクがかけ出してシリルを見てにやりと笑い、次の瞬間には彼の手には炎が渦巻いていて、その拳を繰り出すと同時にを次々と炎が蛇に打ち込まれる。
魔力の関係上、アルベルクの勝ちだなと私は瞬時に見抜いた。
そしてその魔物を無力化程度に抑えてから、アルベルクは傍にいた檻を開けた者達を全員倒してしまう。
一人で何十人分といった戦力であるらしかった。
そういえば何時もシリルに負けていたので気付かなかったが、このアルベルクはこんなに強かったんだと私は思いつつ、これよりもシリルが強いとなるとどれくらいの強さなんだろうと今更ながらに気づいた。
そこでシリルがぽつりと一言。
「……フルールの前でいい所を僕は見せられなかった」
その声はやけに切なげに聞こえたのだった。




