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高性能メイドは、やれば出来る子です!  作者: ラズベリーパイ@天安門事件
第一章 メイドになった私が御主人様と普通に恋に落ちるお話(嘘)
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メイド生活とご主人様のお見合いについて

 メイドとしてのお仕事は、今日で一週間になる。

 初めて見たこのシリルの住むお屋敷は五階建ての白い壁が印象的な屋敷で、赤い屋根がついている。

 しかも都市だというのに側には木々が生い茂る庭があったり、入り口に辿り着くまでに時間がかかったりと私の常識を超えた世界が広がっていた。


 使う食器も、どこどこの○○○で××な高級なものであるらしい。日頃安売りでマグカップを買っていた私にはよく分からない世界の話である。

 しかも飾るのではなくて日常的に使っているらしい。

 ちなみにこの世界、特にこの国では貴族というと、魔力が強いうイメージを持つ人が多い。


 それは今から約五十年前にあった、“災厄”に由来するのだが、それを倒した力の強い魔法使い達が今は貴族となっている。

 なのでその貴族の末裔達は魔力も強いし戦闘能力もあるので、軍にはいったり宮廷魔法使いになったりしている場合が多いらしい。

 そして豆知識だが、今の時代、剣士というと権の技も優れた魔法使いを指す。


 そういった理由からシリルは非常に強い魔法使いであるらしい。

 しかも、まれに見る天才的な使い手だそうだ。

 ……あの姿からは容易に想像できないが。


 そんな歴史的貴族事情や物語の貴族しか縁のなかった私。

 それがこんな場所に来て、貴族というだけあるような大きな屋敷やメイドや執事などを多数抱えている光景を目撃させられたのである。

 別世界に入り込んでしまったこの場違い感に焦った初日。


 そしてもう知ったことではない、やるしか無い、仕事をまっとうすべしと開き直ったのがその次の日。

 思いっきりのいい性格は私の美点だと思う。

 そしてシリルの指示通りに私は色々とこなしていく。


 これはメイドの仕事と関係があるのかなと疑問に思う物もあったけれど、拾ってくれたシリルに答えるために必死になって全てをこなしていた。

 ただ、その度に何故かシリルは微妙というか口の端が引くついていた気がするが。

 一体何でだろうと思いながらも聞けずじまいで、これまでの日々を私は過ごしていた。


 ちなみにシリルも私の同い年だが、まだまだ修学の身であったりするけれどこの屋敷に一日中いるには理由がある。

 つまり春休み。

 そしてそれ故に、シリルと同い年の従姉妹であるカタリーナがこの家に入り浸っていた。


 そんなカタリーナは私を気に入ってくれたらしく、よく話し相手にさせられたり紅茶を入れさせられたりしていた。しかも、


「ねえ、フルール」

「はい、何でしょう? カタリーナ様」

「私のメイドにならない?」

「私はシリル様のメイドですので」

「ヘッドハンティングよ? 優秀な子は誰だって囲い込みたくなるわ。私はそれだけ貴方を買っているのだけれど」

「ありがとうございます。ですが私はシリル様のメイドですので」

「今は転職の時代よ? 別の仕事につくのも見聞が広がって人生がより豊かになるわ」


 くすくすと小さく笑いながら、そっと私の入れた紅茶のカップに白く細い指を伸ばすカタリーナ。

 そういった仕草だけでも絵になる様な、あのシリルの従姉妹だと思わせる美少女だ。

 長くつややかでくせのない銀髪、紫水晶の瞳。頭につけた紫の薔薇と真珠、リボンのついた花飾りは彼女のお気に入りであるらしい。


 纏う水色のドレスも彼女にとても良く似合っていると思いつつも、元の素材が良いのが一番効いている気がする。

 やはり絶世の美少女は、何を着ても身につけても様になる。

 嫉妬よりも目の保養という言葉が先立ってしまう私は、もしや面食いなのだろうかと最近悩みつつある。


 そもそもシリルの女装姿に、素敵、この人にメイドとしてお仕え出来る、嬉しい! と思ってしまったくらいだし。

 そこで一口紅茶に口を付けたカタリーナが、


「相変わらず美味しいわ。このお茶と貴方のケーキ目当てで私、ここに来るのよね」

「そう言って頂けると嬉しいです」

「だから私も貴方が欲しいのよね。どうしたら私の所に来てくれるかしら」

「……申しわけありません」

「謝らなくていいわ。はあ、もうちょっと早く出会っていればよかったのに……残念ね。ああそうそう、また母からシリルのお見合い写真を押しつけられてしまったのだけれど、お願いできるかしら」

「はい、お任せ下さい!」


 私は即座にそれを受け取る。

 私と同い年、16歳のシリルだが、お見合いがことごとく失敗しているらしい。

 そのために気に入られている私がお見合いを“成功”させるため裏工作をするよう、シリルの両親も含めて言われている。


 ただ、シリルの両親達は私を見て。


「まあ、いざという時はね」

「そうだな、いざという時は……それでいいな」


 といったよく分からない話を二人で交わしていたのだが、とりあえずはその任務をこなしつつシリルのメイドとして現在は頑張っている。

 だが最近は、私のお願でもそのお見合い相手に会ってもらえないため、


「次はどんな手を使いましょうか。最近シリル様、お見合いと聞くと何処かへといなくなってしまうんですよね」

「そうなの~。そういえば私、たまに何かから逃げてきたらしいシリルと一緒にお茶をして、愚痴を聞いていたりするわね」

「カタリーナ様、そういった時はシリル様にお見合いをするように勧めて下さい」


 私がそうお願いするとカタリーナは困った様に頬笑み、


「……シリルに同情してしまいそうになるわね」

「ですがシリル様は時々不安を覚えますが、素晴らしい方なんです! 優しいし美しいし知識が豊富だし……」


 私を雇ってくれたシリルは、そんな素晴らしい人に見えたのだ。

 女装癖があるのは些細なことである。

 そもそもあれはシリルの母親のお人形遊びの延長でああなってしまっただけで、シリルは被害者……というには楽しみ過ぎている気がするが、それが理由で、しかも似合っているから特に問題はないと私は思う。


 そう、美しい物は正義なのである。

 そこでカタリーナがぷっと吹き出した。


「ぷっ……優しいし美しいし知識が豊富……駄目、おかしすぎる」

「笑わないでください、カタリーナ様。シリル様は繊細なんです」

「……うぐっ、ふう……そう、貴方が見たシリルはそうなの。うん……」

「そうなんです。まったくもう……」


 それぐらい素晴らしい方なので、絶対に素晴らしいご令嬢とのお見合いを成功させようと私は思ったのだ。

 だがそんなシリルはそのお見合いに乗り気じゃないらしい。

 私が薦めるたびにシリルは微妙な顔になるが、それはきっと私を信頼しているからで、その信頼ゆえに私がシリルが嫌がるお見合いを持ってくるのに抵抗があるのだろう。


 そう一人頷きながらそこで私はちらっとカタリーナを見て、


「所でカタリーナ様。シリル様のお見合い相手はいかがでしょうか」

「嫌よ」


 実はこのカタリーナの美貌も含めた才気に私は惚れこんでいる部分もある。

 教養あるこの従姉妹をあのシリルの花嫁にと密かに狙っているのだが、未だに色よい返事がない。

 それどころか即答で、お断りされてしまう。


 だが今日はもう少し頑張ってみようかなと思って私は、


「でも少しくらいはいいかな? と思いませんか?」

「ないない。ありえない」

「いえ、でもこの家に来てお茶していたりしますよね?」

「ええ、目的として別の物があったりするのだけれど、そういえばまだフルールは遭遇した事がなかったわね」


 楽しそうに笑うカタリーナに私は不思議に思う。

 この人、こんな風に微笑むのは珍しいなと。なので、


「その遭遇とは一体何ですか?」

「アルベルクよ。シリルのライバル伯爵。何かにつけて比較されて、負けているとてもとても不憫で可愛そうな子なの」

「そ、そうなんですか」

「それに性格も駄目なお金持ちのバカ息子といった風で……あの子、とっても美味しそうなのよね」


 うっとりとするように呟くカタリーナの様子を見ながら私は、何か別の意味が含まれている気がした。

 気のせいですましてしまってもいいのだけれど、危険なものを感じる。

 なので話を変えようと思い、そして、今陶酔するように呟くカタリーナに私は、


「シリル様とのお見合いはいかがでしょうか」

「嫌よ」

「く、やはり即答ですか」

「当り前じゃない。それとさっきからシリルが恨めしそうにドアの隙間からこちらを見ているのに、フルールは全然気づいていないのね」

「え!」


 私は振り返るとそこにはこの部屋の入口の扉から、恨めしそうに私を見るシリルが。

 今の話を何処から聞いていたのだろうかと思っていると、そこでシリルは部屋に入ってきて、


「僕の好きな紅茶とお菓子を」

「はい、ただいま」


 私は慌ててシリルの分の紅茶とケーキを用意しに台所に向かったのだった。


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