自分の分もと要求する
何時もの様に紅茶とお菓子を持ってきた私はシリルに手招きされる。
とりあえずは仮の恋人という事で話がまとまったので、一瞬ぎくしゃくしてしまいそうになりながらも私はいつもの様に近づくと、
「デートですか?」
「うん、明日付き合ってくれるかな? フルールは仮の恋人役をやってくれるらしいし」
「分かりました。となると実際のデートのように、時間に合わせて待ち合わせもした方が良いですか?」
多分、シリルのお見合い相手となる御令嬢とは、外で待ち合わせするか迎えに行くかのどちらかだろう。
ではまずは待ち合わせからかなと私が思っているとそこでシリルが、
「待ち合わせ……そうだね。そうしよう」
「では何時頃ににしましょうか? シリル様を待たせるわけにもいきませんし」
「! フルールは僕より後に家を出るんだ!」
「? いえ、でも……」
「『待った?』、『そんなに待っていないよ』って恋人同士みたいな会話をしたいんだ!」
「そうですか? なるほど……分かりました。では少し遅れて出ますね。待ち合わせ場所は何処にしましょうか?」
そういえばどこに行くかも決めていなかったなと私は思いだして、まずは場所からと言おうとした所で、
「よし、フィルダ目抜き通りの南の入り口前、招き猫像がある所にしよう」
「シリル様、よくご存じですね。あそこはマイナーな待ち合わせの場所だった気がするのですが」
「その方が人は少ないしね。じゃあ、明日十時にその場所で」
「分かりました。さて、早速服を探さないと……」
デートとなると色々準備が必要だ。
まずは服を選ばないといけないが、手持ちの物でそんなデートに来ていくのに良さそうな服はあったあろうか? 都市に来たばかりでそういった彼氏が出来たわけでもなくというか今まで恋をしてもふられたのが二回ほどだったので、デートもした事がない。つまりこの仮のデートが、
「シリル様のこのなんちゃってデートが、私の初デートになるのか」
「本当!」
シリルが嬉しそうに席から立ち上がったが、すぐに落ち着いたように椅子に座りなおし、
「うん、フルールには仮のデートとはいえ、楽しんでもらえるようにするよ。デートのルートはもうとっくに決めてあるし」
「あ、そうだったのですか。なるほど、ではそれでどのポイントが女性にとって大事なのかをチェックしますね」
「……うん、そうだね。それで妥協しよう」
シリルがちょっとだけ微妙そうな顔をしながら告げる。
そこで私は後ろから誰かに抱きつかれた。この気配はカタリーナだ、そもそも私を抱きしめるために前に手をやっているドレスの部分で容易に想像がつく。
「カタリーナ様、どうされたのですか?」
「服を選ぶと聞いて飛んできたの。明日はフルールを最高に可愛くして送り出してあげるから感謝しなさい? シリル」
シリルが、恩に着るよと答えるのを聞きながら私は、
「あの、カタリーナ様、私の同意は……」
「? あら、フルールは綺麗になるのが嫌なの?」
「そういうわけでは無くて、どうして?」
「そうね、フルール、考えてみなさい? 貴方はあのシリルと御令嬢をお見合いさせるため、そのために仮の恋人をしようとしているのよね?」
「はい、そうですが……」
「そのために、それに見合った令嬢の服装という物を知るべきではないかしら」
「! なるほど! でもそうなってくると私のお給料で服を買えるかな……」
「今回は必要経費で後でシリルに請求すればいいわ。なにしろシリルのデートのための予行練習ですもの。ついでに私の分も払ってくれると嬉しいわ」
カタリーナがさらりと自分の分もと要求する。
それにシリルが深々と溜息をついて、カタリーナを手招きするシリル。
カタリーナはそれで近づき、何やら話をはじめ、ケチだの何だの言っていたが、
「分かった。それでいい。フルールを可愛くしてくれ」
「はーい。じゃあ今日はこのままお仕事お休みでいいかしら。これから準備に忙しいもの」
という事で私はカタリーナに連れられて、洋服を買いに行く事になってしまったのだった。




