複数ルートで四通出しておいたから
目の下に大きなクマを作りながら私はふらふらとした足取りで、何時もの様に仕事に向かった。
まずはシリルを起こしに行く作業からである。目を覚ましてすぐに、シリルは白湯を飲む。それを用意しながら、昨日の今日で顔が合わせ辛いなと思う。
「恋愛感情で好き、か。これはあれですか? 一目ぼれというものなんだろうか」
それを考えると、シリルの趣味は悪いと思う。
一目惚れをするくらいの容姿は、私の個人的な見解では有るのだけれど、カタリーナくらいの容姿でないといけない気がする。
もしくは女装したシリルレベルである。シリルは女装をすると信じられない美少女に変身するのである。男性の目からもそう見えるらしく、以前女装したシリルと一緒にとある有名菓子店にいった時の男性定員が……。
さて、そんな事を考えるとますます信じられない、からかわているのだろうかという疑惑が私の中で膨れ上がる。
それとも別の理由があるのだろうか。
例えば美形が美形だと思えなくなるような……。
「まさかシリル様の女性の好みに問題があると?」
だから今まで容姿端麗な女性ばかりをお見合いに紹介していたが、だから受けが悪かったのだろうか? なんて事だと私が衝撃の事実に気付いて戦慄いていると、
「フルール、また妙なことを考えているでしょう」
「ひょわぁああっ、って、シリル様、もう起きていらしたのですか?」
「うん、フルールを驚かそうと思ったのだけれど、声をかけようと思ったら、お見合いがどーのこーのと一人でブツブツいっていたから諦めていないなと」
「ふ、ふえっ、で、でももしかしたらシリル様は私みたいな人が好きだということは美形のお嬢様だと上手くいかないのかと」
そこで深々とため息をついたシリルが私を見て、
「僕はフルールに、恋愛感情で好きだと昨日伝えたよね?」
「は、はい、聞きました」
「そしてキスまでしたよね?」
「は、はい」
「それなのにどうしてそんな発想に行くのかな?」
微笑むシリルがなんとなく怖い。
これは故郷で母親が、怒らないからいってみなさいと言って言うと怒られるパターンに似ている。
私はそう思うが焦りだけが眠い頭に響いていって、
「だ、だって一目惚れされるようなくらい私、美人じゃないですし一般人ですし! シリル様には良家の子女と結婚して幸せになってほしいです!」
「えっと、何時僕が一目惚れって言ったかな、フルール?」
「だ、だって、たまたま会って私をメイドにしてくれたわけじゃないですか!」
「あ、うん、そう言えばそうだったね」
「そういえばって、いかにも他で会っているみたいじゃないですか」
そこでシリルが目を瞬かせてから私を見て、
「まあそのへんの話はいいとして、どうして美人じゃないっていうかな。フルールは十分可愛いよ?」
「えっとあの、シリル様、私達何処かで……」
「そういえば、そんなイケズなフルールのために、昨日ポストに手紙を投函しておいたから」
「手紙、ですか?」
「フルールの実家に、フルールをお嫁さんにもらいますねって」
「あの、私まだ返事はしていないのですが」
「外堀から埋めていくことにしました。今頃配達されているんだろうな~」
「……シリル様、これから私はちょっと用事を思い出しましたのでお暇がいただけるでしょうか」
「ん~、いいけれど、無理だと思うよ? 複数ルートで四通出しておいたから」
「……別に、手紙をどうこうするつもりは私には全くありません」
「そうなんだ? 手練の郵便配達人に頼んだから、簡単に追いついて奪えないと思うけれど、頑張ってね」
そんな楽しそうなシリルの声に、別に手紙をどうこうするつもりはありませんと答えた私は、シリルが見えなくなるとともに、急いで部屋に戻りメイド服から着替えて黒い布を纏って誰だかわからないようにして外に飛び出して走りだしたのだった。




