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高性能メイドは、やれば出来る子です!  作者: ラズベリーパイ@天安門事件
第一章 メイドになった私が御主人様と普通に恋に落ちるお話(嘘)
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無職になった私は、美少女(男)に拾われました☆

 運が悪かった。

 その一言で済ませるには、この状況は少しきついと私、フルール・シルフィアは思う。

 そんな私は長い黒髪にピンク色の瞳が印象的と言われる、普通の平凡少女である。

 平凡と思うたびに私は、もう少し美人に生まれたかったなという気持ちになるけれど、今はそれよりも重要な課題が頭を占めていた。それは、


「折角都市に出てきて、就職したのに……そのお店が倒産するなんて」


 私自身、この都市メフィアに知り合いのつてを使ってやってきた。

 その知り合いはお菓子を販売する事業をしており、もともと私はお菓子を作るのも好きで、だからお菓子のお店で働ける事は嬉しかった。

 そこそこ仲の良い友達も出来て、都市に来て一ヶ月、少しはこの都市にも馴染んできたかなと私は思っていた。


 しかも店は、最近のお菓子ブームに乗り売れに売れ、店自体も拡張路線だったのだ。

 次々に新しい店舗が出来ていたらしく、私がいた時も新しい店がオープン間近だったのである。


 この全てにおいて、“倒産”を思わせるような何かは存在しなかった。


 店の中で働いていた私は断言できる。

 まさか、投機に失敗して(黒いダイヤと呼ばれる、闇の魔力石関連の投機。但しこの会社の場合詐欺や、社員の横領も絡んでいるらしい)こんな事になるとは。

 それとも、こうなる予兆があったけれど私自身が気づいていなかっただけなのだろうか?


「変な所で抜けているんだよな、私。しかもお給料、他の人の0.6倍だったし」


 一月働いたのでその分のお給料を貰ったのだけれど、私のお給料は他のお友達のお給料の0.6倍でした。

 知り合いなので、安くても人一倍働いてくれるだろうという“甘え”があったらしい。

 だがそれを知った私は、あまりのことに衝撃を受けて実家に帰ることなく、次の職場をこの都市で自力で手に入れようと頑張っていた。


 今日で二日目。給料を節約しているが宿代がのす。

 安い宿といっても、入ってくるものがなければきついのだ。

 一応は故郷に帰るための費用は別立てで取っておいているし、日雇いの仕事も既に幾つか見つけているのでいざとなればどうにかなるのだが、やはりここでこのまま帰るのは悔しいのだ。


 そう思って私は今日も黒いスーツに身を包み、公的な職業斡旋所に向かう。

 都市に来て一月の間に見慣れた灰色の石畳の街と、レンガ造りの高い建物が密集する街。

 現在私が歩いているのは新市街の一角にあるよく似た建物が立ち並ぶ石畳の道路だが、ここが作られたのは数十年前であるらしい。


 とはいうものの昔から同じであったわけではなく、こまめに整備が繰り返されているらしい。

 ちなみに側にある街頭は、魔力を以前よりも40%カットしたものであるらしい。

 しかも寿命が二倍に伸びているという、とても高性能な灯りであるらしい。


 その辺りの話は雑学として私が都市に来て手に入れたのはいいとして。

 そこで丁度目の前で金髪の女性が、ガラの悪そうな男達約三名ほどに路地裏に連れて行かれていった。

 そのガラの悪そうな男は、赤い髪を頭の中心に残している細い背丈の男、青い髪を長くのばして縛っている筋肉の多い男、黄色い髪の普通の髪型だが破けた服を纏う男といった個性的な面々である。


 都市の繁華街が近いのでそれほど治安がいいとは言い切れない場所だが、まだ日の明るいこんな時間にああいった輩がいるのは珍しい。

 その珍しいそういった輩に捕まってしまうのも凄く運が悪いと思うが。


「交番まではちょっと距離があるかな」


 私は小さく呟いてから駆け出す。目指すは彼女の連れ込まれた細い路地裏。

 昼でも薄暗い場所で、私が覗きこむとその奥は行き止まりになっているらしかった。

 そして案の定、追い詰められるようにいる彼女。


 彼女は私を見て一瞬驚いた顔をした気がしたが、私はそれについて考える余裕はなかった。

 今は彼女の眼の前にいる彼らをどうにかするのが先決である。

 そこで彼らの声が、ようやく言葉として聞き取れる位置まで私はやってくる。と、


「綺麗なお嬢ちゃんだな。痛い目に遭いたくなかったら有り金を全部出せ」

「俺たちさ、鐘に困っているんだよね。慈善事業だと思って払ってくんないかな」

「そうそう、お金持ちの義務ってやつだ。更にご奉仕してくれてもいいんだぜ」


 彼女達を取り囲む彼らは、何も気付かず下卑た笑い声を上げながら金銭を要求している。

 雰囲気からもそれで終わらない風ではあったのだが、ちょうど彼らは私に向かって背を向けている。

 田舎産まれ、田舎育ちの私であるけれど、お菓子作りとは全く関係のない特異な才能がある。


 強い風の魔法が使える、大きい魔力だ。

 風を操ったり使ったりする力で、特に誰かに教わったわけではないのだがこの風を纏うと早く移動出来たり、そのまま蹴りを打ち込む時に風圧を加算させて衝撃力を高めたり、自身を防御したりといった事が私が望むだけでできていた。

 以前都市出身の先生がそれを聞いて、目を丸くしていたが私には当たり前にできる事だったので、何にその先生が驚いていたのか今でもよく分からない。

 本当はその力を伸ばすために都市の魔法使い専門の学校に通ってはどうかと言われたが、私はそちらの必要性や興味が全くなかったためにこうしてお菓子のお店に働くことになったのである。


 ちなみにこの世界の 魔法には四つの傾向があると言われている。

 それは個々人の特に強い特性であり、なので風の力が強いといってもライター代わりに小さな炎を出す程度のことは出来る。

 そういった属性の魔力を組み合わせて事象を起こすのが魔法であり、それらは魔力へのアプローチの仕方によって恐ろしいほどに多種多様な現象を起こすために一言では説明できない。


 今も研究所では新しい魔法が生み出されているので、とりあえず魔法については日常で適当に使っているもののイメージが私の場合は大きい。

 さて、そのあたりの事情は今はどうでもいいのでおいておいて、私は風の魔力を足にまとい飛び上がる。

 そのまま彼女を取り囲む男達三名ほどを、振り返るまもなく飛び蹴りを食らわして気絶させた。


 今までの経験でこの程度なら気絶すると分かっているので問題ない。

 やはり油断をしている相手を不意打ちで倒すのが一番安全である。

 そう思いながら棒立ちになっている彼女を改めて私は見る。


 サラリとした長い金髪は、こんな薄暗い路地の中でも輝きを失っておらず、その青い瞳は雲ひとつない澄んだ青空を落とし込んだかのよう。

 肌だって真珠のように白くつややかで、目鼻立ちが整っている。

 細く繊細な体にまとう、濃いピンク色の花がらのワンピースも風になびき、まるでその少女とその背景自体が一枚の絵であるかのような、現実味のない美しさをたたえているようだった。


 一瞬その光景に私が目を奪われていると、彼女が微笑む。


「助けて頂いて、ありがとうございました」

「いえいえ、たまたま通りかかっただけですから。それでは私はもう行きますね」

「? こんな日の高い時間に何処かに急ぎの用事が?」

「いえ、仕事を探している最中でして」


 そう彼女に告げると、彼女は目を瞬かせて、


「お菓子のお店に働いていたのでは?」

「……どうしてご存知なのですか?」

「その袋、スレイル菓子店の店員しか持っていない布袋ですよね?」


 いい所のお嬢さんのようなのになぜかそういったことに詳しいらしい。

 私の働いていたお店は、安くてそこそこ美味しいをモットーに作られたお店なので、何となくこの人には似合わない様なイメージがあったのだ。

 もっとこう、木漏れ日の中で優雅に紅茶や王室御用達のチョコレートケーキを食べている様な、そんな、物語に出てくるお金持ちのお嬢様な風に見えるのだ。

 物語と現実を一緒にしてはいけないと思うが、それだけ美しい少女だったのであるから、仕方がない。


 なので彼女に問われたので私は、投資に失敗して倒産したといった事情を説明する。

 それに彼女は気の毒そうな顔になってから、次に何かを閃いたらしく私に微笑んだ。


「だったら僕のメイドになってくれないかな?」

「え? メイド?」

「そう、こう見えても、レオミュール伯爵家の人間なんだ」

「伯爵家!」


 貴族であるらしい。私のイメージは正解であったようだ。

 とはいえ、一般人の私では貴族らしいということしか分からないが。

 そしてそんな彼女にメイドお仕事はどうかと言われたなら、つい頷いてしまうのも仕方がないと私は思う。


 だって同性だけれど憧れてしまうよう美少女で繊細そうな彼女に仕えるのも、何となく素敵な気がするし。

 後から考えるとよくこんな怪しい話に即座に食いついたなと思うけれど、何となく彼女を見ていると安心する何かがあったような気がする。

 そう、以前何処かで会った様な……。


 そこで彼女は私に微笑み、


「どうする? 僕のメイドになる?」

「はい、ぜひ! あ、でもメイドの仕事って……」

「ああ、僕が直接指示を出すから安心していいよ」

「何から何までありがとうございます!」


 就職が決まったと喜ぶ私に彼女は苦笑しながら、


「じゃあ、うちに来て。契約書を交わすから」

「はい!」

「永久就職でもいいよ?」

「本当ですか! もし出来るならそうしたいです!」


 これで就職口確保! と私が喜んでいると彼女は目を瞬かせてから苦笑して、


「これからよろしくね、フルール」

「よろしくお願いします。えっと……」

「シリルだよ」

「シリル様ですね。昔、仲のいいお友達だった双児の女の子と同じ名前ですね」

「……そうだね。じゃあ行こう、こっちだよ」


 そう言って私は彼女に手を引かれて歩き出す。

 そういえば私、名前名乗ったかな、という気がしたけれど彼女は知っているので名乗ったのだろうと私は理解した。こうして私のメイド生活が幕を開けたのである。

 お給料もよくて理想的な職場ではあったのだけれど、ただひとつ誤算があった。つまり、


「フルール、どっちのドレスがいいと思う?」

「……シリル様、たまには普通の服はいかがでしょうか」

「ええー、こっちの方が可愛くて僕に似合うし」

「……本日は、リースレン伯爵との公式なお話し合いなので真面目な格好でお願いします」

「ぷううっ、分かったよ。フルールのお願いだしね」


 そう言って笑いながら着替え始めるシリル。私はその服を着替える手伝いは執事の人にお任せして部屋を出る。そこでようやく私は深々とため息を付いてから、


「美少女だと思ったら美少年だったなんて、ね……」


 そう私が憧れるような美貌を持っていた彼女、否、彼は、同い年の“男性”だったのだ。

 人は見かけによらないというが、完全に予想外だった。

 しかも男性の格好をすると不思議と男性にしか見えないような美貌だったのも私には意外というか、


「私の目は何かおかしいんだろうか」


 一発で性別を見抜けなかった自分に私はある種の悲しさを覚え、別の場所に向かったのだった。





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