部屋の中から声がする
シリルはカタリーナとフルールのいる客室の前でうろうろしていた。
客室の中にフルールとカタリーナが入った後に、メイド達が三名ほど入った後に鍵がかけられた。それから部屋の中から聞こえる声といえば、
「や、止めて下さい、カタリーナ様っ」
「あら、でもこのメイド服を脱がさないと着替えられないでしょう?」
「い、いえそれなら自分で脱ぎますぅっ!」
「そう言ってフルールは逃げちゃう気なんでしょう? 大丈夫よ、安心なさい?
私達の力を全て出し尽くして、美しく着飾ってあげるわ」
「や、やめっ、ちょ、変な所をさわらないでぇえ」
「あら、フルールがいい子に大人しくしていれば何の問題はないわよ?」
「で、ですが……! そ、そこは、まって、ダメっ、それは……いやぁあああああ」
「ふふふ、これもちゃんとしないとね~」
「ちょ、そこ、胸は……も、揉まないでくださっ……」
「うーん、この大きさだと私のドレスには少し詰め物が必要そうね。残念だわ」
「ど、どうせ私は貧乳です! カタリーナ様が大きすぎるんです!」
「あらそう? 十分な大きさの気がするけれど、そんなに気にしているなら私がそのうち魔法薬を作ってあげましょうか? どれくらいの大きさがいいかしら」
「あれ、カタリーナ様、魔法薬を作るのが得意なのですか?」
「ええ私の属性は土、だから植物関係や鉱石関係はお手の物よ。ふふ、それでどうかしら」
「いえ、遠慮しますって、ちょっ、それは……」
「今日のために用意した特製の品よ。さああ、覚悟なさい!」
「す、透けて、ま、いや、ちょっ、やめっ、ぁああああああああ」
と言ったカタリーナの楽しそうな声と、フルールの悲鳴がこだまする。
だがそれらの会話はあらぬ妄想を掻き立てるような気がしてシリルは落ち着きなく部屋の前をぐるぐる回っていた。
フルールのドレス姿は気になるがそれ以上に部屋の中で聞こえるあの声が気になる。
カタリーナにお任せしたのは間違いだったのだろうかとシリルは真剣に悩む。
確かに身近な異性で頼むならば、カタリーナが一番いい。だがフルールを気に入っているカタリーナが、別な方向に情熱を回す可能性もあるわけで、どうしよう。
かといっていま鍵を壊して入ると着替え中。そんなことをすればフルールに、シリル様の変態と罵られて軽蔑されるかもしれない。
……。
いやいや、ちょっといいかもしれないなどと僕は考えていない、気のせい気のせい、もっと違う関係を望んでいるがそれは違う、落ち着け僕。
そんな風にシリルの頭の中は極度に混乱していたのだが、そんなシリルにアルベルクは、
「何を焦っている。たかが声が聞こえる程度ではないか」
「あのね、好きな子のそんな声を聞いたら男はあらぬ妄想を引き起こされるものなんです!」
「ふ、残念だな。この俺には全く効かないからな」
「それはカタリーナがする側だからね。でもフルールの着替えを手伝うカタリーナは楽しそうだね。そういえば僕も女装するときはカタリーナは楽しそうだったし、これからはアルベルク、君も例外ではないかもね」
「ふん、この俺のような男らしい人間を女装させようなどとは幾らあのカタリーナでも、それはないな」
「どうかな? 一応君も美形だし意外に似合うかもしれないよ?」
「お前のような女顔ではないから、俺が選ばれることは全く無い!」
「そう? じゃあカタリーナに推薦してみるね」
「や、やめろ。本当にやめてください」
「おや、自分は男らしいんじゃなかったかな?」
「く、あのカタリーナならやりかねないからだ。だがお前にやめろといえば絶対に告げ口をすると分っていた。だがこうなってしまっては仕方がない。ここで今の話も含めてなかった事にしてもらおうか」
「……僕への挑戦に勝利したら、ね。負けると分かっているのにこりないね。せっかくだから僕が勝ったら自分から女装したいってカタリーナにお願いしてもらおうかな」
「……男には負けられない戦いがある。それは今この時なのだ、頑張るんだ俺」
「いや、もうなんかいいや。黙っておいてあげるから、その代わりに昨日フルールに何を話したのか教えて欲しい」
「普通にシリル、お前の好みを幾つか教えただけだ」
「? どんな?」
「レモンケーキが好きだとか、黒髪にピンク色の瞳の女が好きだとかだな」
「……よくやった。素晴らしい友人であるアルベルク君を持って、僕は誇らしいよ」
「素晴らしい手のひら返しだな。だがあの娘はよく分かっていないようだったが」
「いや、ちょっとずつでもいいから理解してもらって誤解を解かないと。でないと距離を縮められない……」
切なそうに呟くシリルを見ながらアルベルクは、変なものを見てしまったような微妙な表情を作っていたのだが、それ以上は何も言わず、そこで部屋の扉が開き、カタリーナが完成したわよと声を上げたのだった。




