わなとなわ
次の日、私はシリルが好きだというレモンケーキを作っていた。
何やらうきうきとシリルが何かをやっているようだが、このケーキで機嫌をよくしてもらい、お見合いをと私は考えていた。
「すでにターゲットの令嬢は搾ってあるしね」
家柄性格美貌、全て揃った令嬢を見つけてあるのだ。
きっと彼女達を見ればシリルもお見合いをする気になるだろう。
誰もが黒髪にピンク色の瞳だし。
「……私と同じか」
呟いてみて私は思う。これで貴族の令嬢だったり教養があったり何かに秀ていたら私もお見合い相手になれたのかなと。
でも魔法使いの学校を目指していなくて、無職になってしまったから職を探しに行く途中でシリルに出会うという縁があったのだから、シリルに出会えなかった可能性を考えるとこれでいいようにも思える。
とりあえずは憧れのご主人様の素敵な相手を見つけるために全力を尽くすのだ。
幸いにも最近は男性の姿をしている事が多い。まだ幼さを残しながらも男性的な部分が見え隠れする美形。
あれがよくもあんな美少女に化けるものだという気がする。
しかも違和感が全くないし。
そう思いながら焼き上げたケーキにレモンの香りのついた白い糖皮を纏わせる。
後で切ってだそう、今日は紅茶にハーブを入れた物はどうかなと私が楽しく考えていると、
「フルール、ここにいたのね。あら? 今日のケーキは何かしら」
「カタリーナ様、今日はレモンケーキです。シリル様がお好きだそうで」
「あら、そんな事をすると、シリルがますます貴方を好きになっちゃうわよ?」
「それは嬉しいです。とりあえずはこのケーキで機嫌をよくして頂いて、お見合いをしてもらおうかと。この前、アルベルク様にシリルの好みを聞きましたから」
「へぇ。それでどんな子がシリルの好みなのかしら」
「黒髪にピンク色の瞳です。後は振り回されるのが好きかもしれないと聞きました」
「……なるほど。シリルはそういった……なるほど」
カタリーナがなるほどと何度も繰り返しているが、やはり好みなどは身近な相手なので言われれば納得するけれど気付かなかったりするのかもしれない。
そこで私ははたと気づいた。
どうしてカタリーナはこんな台所にまで私に会いに来ているのだろうかと。つまり、
「カタリーナ様は私に何かご用でしょうか?」
「え? ああ、そうね。新作のドレスを購入したのだけれど、どちらが良いのか私には判断がつかなくて」
「なるほど。分かりました、使った道具を洗ってすぐに向かいます。何時もの客室で構いませんか?」
「ええ、そちらで待っているからできるだけ早く来てね」
そう去っていくカタリーナを見送ってから私は急いで食器を洗う。
それらを終えて、カタリーナのいる部屋にやってくると、部屋に入った瞬間、縄が私のすぐ傍に飛んでくる。
輪の形になったそれを腰を落とす様にして避けて右側に飛びのいた私は、地面にその縄が落ちるのを確認してからその縄の持ち主であるカタリーナを見ながら警戒する様にみて、
「カタリーナ様、これは一体どういう事ですか?」
「やっぱりフルールは避けちゃうわね。でもね、そんな事もすでに私は想定済みなの」
くすりとカタリーナが笑うと同時に地面が光る。
青白いその光に、眩しいととっさに顔を庇ったのが間違いだった。
しゅるんと光りの帯状の物がのびてきて私を腕ごとぐるぐる巻きにして、
「さて、これでフルールは逃げられないわね」
「あ、あのカタリーナ様、何を……」
「まずはそのメイド服を脱いでもらう事から始めましょうか」
この状態でどうやってと私は思ったのだけれど、あれよあれよという間に私は服を脱がされ……気付けばピンク色のドレスを着せられてしまったのだった。




