服のサイズもすでに知っているのだー
フルールが部屋から出ていったのを確認してからシリルは、
「それで本当に相談に乗ってくれるのかな?」
「その前に言う事があるでしょう?」
カタリーナが頬笑みシリルはうっと小さく呻いてから、
「……カタリーナはとても可愛らしい美少女です」
「そうそう、フルールも私をそう言ってくれるからお気に入りなのよね~」
「……いや、カタリーナの本性をまだまだ全然フルールには見せていないからだろう」
「当り前でしょう? あの子は私のお気に入りだし。一日でいいから寄こしなさいよ」
「嫌だ、そうしたらフルールが戻ってこない気がする」
「シリルにしては珍しいくらいに執着しているわね。まあ、出会って遊んでいたあの時は、私も一緒にいたけれど……あの時からフルールは可愛いしいい子だしね。丁度シリルは男友達に酷い目にあったばかりだし」
「別に親友だと思っていた相手が僕を仲間はずれにさせるよう画策しているなんて、よくある話だよ。それに大人の思惑まで絡んで来て面倒臭い事になっていたからね」
「でもやり返したのでしょう?」
「まあね。辺境に封印したから、ちょっとやそっとで都市には戻ってこれないしね」
楽しそうにシリルは笑ってから、すぐに暗い顔になる。
「でも僕が大好きなフルールは、どう頑張っても全然僕を見てくれないんだ。身を守る為も含めて魔法は教えたけれどもう教える事が無いって、ミリアン先生が言っていたし」
「……ミリアン先生って風魔法の権威の?」
「うん、フルールは千年に一人の逸材だって。このままメイドなんかにしておくのはおしいって言われてしまった。でも、フルールにはこう、僕のメイドになって欲しいし、学校に行ったらそのまま宮廷魔法使いを目指してめくるめく王宮での権力闘争や陰謀やはては王子に見染められて……」
「シリル、貴方小説か何かの読み過ぎじゃない? フィクションとノンフィクションの区別はついているのかしら」
「だ、だって、乙女心が分からなくて恋愛小説を読んでいたらそんなものばかり……」
「そうじゃない恋愛物もあるでしょうに。それだからフルールにもからかわれているって思われるのよ」
「う、うう……反論したいけれど反論できない」
シリルがカタリーナに答えてテーブルにうつ伏せになる。
明らかに弱っているシリルを見ながらカタリーナは、
「あのシリルが形無しね。恋は人をかえを変えるというけれど、このシリルがここまでこうなるなんて凄いわね」
「……何がいけないんだろう。優しくしているし、さりげなくお嫁さんにした後の手は打っているというのに」
「あの自分の身を守る為に魔法をというのも?」
「他にも料理などの能力を、花嫁修業もかねて鍛えてもらう予定なのです。でも戦闘能力はほどほどにしておかないと。この屋敷に出入りする人達の経歴やら何やら女主人担ってもらう訓練も兼ねて教えたら、スパイやら何やら危険な相手も全部倒して連れてくるし」
「凄いわね。その中に貴方が関わっている“翡翠の涙”は混じっているの?」
「そこそこね。しかも僕がフルールを大事にしているのもばれているらしくて……」
「それはあれだけ貴方が構っていればそうなるでしょうね」
「で、でも少しでもフルールに僕の事を気にして欲しいし、だから少しでも近くにいたいし、そうすれば守れるし!」
「でもシリルが鍛え過ぎたので、守るどころか自信を付けて、シリル様を守ります、となっていると」
「……」
シリルがテーブルにうつ伏したまま、がっくりとうなだれる。
シリルのフルールへの愛情の示し仕方が全て裏目に出ている。
カタリーナはこの冷血漢な所もある従兄弟がこんな風に恋愛ごとでぐったりしていくのを見ていくのも楽しいのだが、カタリーナ自身も身内としての情はあるしそれに、フルール自身が、シリルに負けてしまい修行の旅に出たアルベルクの兄の様に風の噂で何処かの国の姫を助けただの、未知の森の奥深くに眠るドラゴンの秘宝を求めてドラゴンと対決するだの冒険に向かってしまいそうな気がする。
そういえばこの前フルールはどんな物を読むのか聞いてみた所、男性向けの小説と言っていた。
彼女のメイド像もそこから来ているらしい。
そして冗談ではなくそうなってしまいそうだという現実に気付いたカタリーナも深刻そうな顔になって、
「フルールは、本当にメイドらしくないわよね」
「そうなんだ、メイドとしての必要な教育はしているはずなのに、何でだろう。何で普通のメイドにフルールはならないんだろう」
「フルールの素地が異常だったというのは言わなくても分かっているだろうけれど、フルールは自分が可愛らしい女の子だって自覚が足りないのかもしれないわね」
「? どういう事?」
「そうね……ドレスを着せてみたり、自分を着飾る楽しみを覚えさせましょう。ようはもう少し女の子らしい能力を付けさせてみてはどうかしら」
「そうか、それだね! 幸いにも僕は女装で培ったドレスに関しての目利きには自信がある!」
「あらシリル、貴方は手伝わなくていいわ」
「え? どうして?」
「貴方、“男”でしょう? フルールの裸がそんなに見たいの?」
「み、みたいには見たいけれど……はい。カタリーナ、お願いできる?」
「ええ、構わないわ。フルールの着せ替えは楽しそう。そういえばフルールの服のサイズは……」
「あ、全部知ってるから大丈夫だよ。だから僕の着て欲しいドレスも……カタリーナ、どうしてそんな冷たい目で僕を見るの?」
どうしてというように可愛らしく首を傾げる金髪の従兄弟を見ながらカタリーナは冷たく一言告げた。
「……変態」
「う、え、だ、だってフルール用のメイド服が必要だから主人として知っていただけだし!」
「まあいいわ。後でドレスを用意するわ。私と体形が似ているから、私の服を中心に着せ替えを楽しませてもらいましょうね。明日でいいかしら」
「明日ですね、明日までに用意しておきます」
そんな約束をシリルとカタリーナが交わした所で、フルールとアルベルクが部屋に戻ってきたのだった。




