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裏切り

作者: 大珠

昔、飼い犬を思いきり叩いたことがある。

チャコっていう。自宅で飼ってた。

散歩に連れて行こうとすると興奮して、家の中を逃げ回るんだけど、ピアノの下に潜り込むのを捕まえようと、僕もピアノの下に入ったときのことだった。


捕まえた瞬間、達成感から不注意になってた。

いきなり頭を上げた僕は、当然頭をぶつけてしまった。

「痛っ!」

スゲー大きな声が出た。

痛いのなんの、ちょっと動けなくなった。


血は出なかったけど、後で触わったら大きなたんこぶが出来てた。

目が開けられるようになってきたら、目の前で心配そうにしているチャコに、無性に腹が立った。

この痛み、チャコのせいだと思った。

いつもは逃げる姿すら愛らしく思うんだけど、このときばかりは違った。

どうしてピアノの下になんか逃げるんだ。

ふざけるな! お前のせいだ!

僕はチャコを捕まえると、その頭を思い切り平手で叩いた。


チャコは豆柴という犬種。左右の耳の間にある、その小さく、狭い額に、思いきりピシャリと。

叩かれる瞬間、チャコは思いきり目をギュッとしていた。

三回は叩いた気がする。

今思い出しても、本当に嫌な気持ちになる。

ただの八つ当たり。チャコは何もしていないのに。何も言えないのに。


自分より弱いものへの、一方的な暴力。

どんな気持ちだっただろう。

もの凄く痛かったと思う。

なんの抵抗もせず、僕に打たれていたチャコ。

あんなに可愛いのに。

あんなに弱いのに。

なんで僕は、あんなことをしてしまったのだろう。

最低、最悪。

謝罪の言葉なんてわからないだろうし、例え雰囲気で伝わったとしても、そのお詫びの感情が何年か前のあの日のことだなんてことは絶対に伝わらないハズだ。

だからこの罪は、僕が死ぬまで消えない、一生、償うことの出来ない罪。


「自分の手が痛かった」とか、そんな自己陶酔でまとめるクズには成りたくない。クズには変わりないけど、おぞましい自分を知ってしまった、その嫌悪感を抱え続けないと申し訳ない気がする。


チャコが死んでしまったとき、少しホッとした自分がいた。

そのとき、本当に死にたくなった。

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