レイジーの騎士生活 帰郷しました。 続
難産&多忙でした。遅くなりましたすいません
私はリリに手伝ってもらって温泉という物に入っていた。
「キルリッヒ様」
「ん、なんだ?というかキルリカでいい。家名で呼ばれるのは好きではないからな」
「分かりました。では、キルリカ、あなたはお兄ちゃんのことをどう思っていますか?」
「ブハッ。と、唐突だな」
「好きなんですか?」
好き、か。私はレイジーが好きなのだろうか。だとすると、どこが?・・・いや、この考えは不毛か。そもそも恋心に理由なんていらないのだから。
「因みに私は、いつもダラッとしているのに緊急時になると別人のようになるところですね」
「え?」
「お兄ちゃんの好きなところです。私も教えたのであなたも教えて下さい」
半ば無理矢理に迫ってくる。まさにズイズイ!って感じ。真面目に答えるのは気恥ずかしい、話題をそらさなくては・・・
「・・・それにしてもこの村の発展はすばらしいな。城壁のある町でもここまでの物は無いことが多い。さぞ歴史の重みがあることだろう」
急にリリの発する雰囲気が重くなり圧力を感じ始めた。本当に一般人か!?
「・・・20年です」
「は?」
「この村の最も古い歴史は20年前の物です」
「どういうことだ。たった20年でここまでの物が出来たら首都などどこも難攻不落の砦になるぞ」
「ここは元々流民の集まる場所だったらしいです。おおよそ村と呼べるようになったのは20年前と行ったところです。村長さんは敵国の元政務官で不正を公開しようとしたら殺されかけこの地まで逃げてきたそうです。門番さんは王国出身ですね。10何年か前の戦争で味方に見捨てられて森を彷徨ったあげくこの場所に、鍛冶師の人は敵国で腕のいい鍛冶職人だったそうです。畑を耕している人たちの親も皆流民でした。そんな人たちが集まって小さな集落を作り細々と自給自足の生活をしていたらしいのです」
「聞いたところ集まったのは優秀な人たちのようではないか。ならば、この発展もうなずけるな」
「いえ、この村をここまで発展させたのはお兄ちゃんのおかげらしいです。お兄ちゃんは天才です。頭が良くて武器の扱いもうまい。その上、鍛冶・裁縫・農耕・木工・畜産など知るはずのない知識も知っていました。因みにこの温泉もお兄ちゃんが発案して半年かけて作ったらしいです。この村の歴史書は要約すれば『お兄ちゃんすごい、お兄ちゃん万歳!』です」
「さすがにそれは」
――誇張ではないか?
「誇張ではありませんよ」
私の心を読んだように私の言葉に重ねてきた。
「お兄ちゃんが6歳の時、水路の整備を発案したそうです。7歳で農地整理と防御柵、各家の改築案。8歳で鍛冶場と養蚕(蚕はテルナ虫のことです。お兄ちゃんが勝手に呼んでいるだけですがこの村では定着しました。)、林業です。当時からすれば、考えも付かない発想だったらしいです。村長さんに聞けば熱く語ってくれますよ。あ、これはこの村においての名言なのですが、お兄ちゃんが6歳の時、水路の整備案を出したときですね。この村の大人達は不可能と断じたそうです。それに出来たとしても死人と同義の俺達には関係ないと行ったそうです。この時お兄ちゃんが言った言葉が名言になっているのですが分かります?」
「ふむ」
6歳で水路整備とは、それにリリが言った言葉が本当ならレイジーは天才という枠にははまりきらないのだが。もはや神の使いの領域ではないか。
「分かりませんか?」
リリは私の沈黙を肯定と受け取ったようだ。
「正解は、“ならその命を俺によこせ。無駄に生き長らえるより村の礎に使ってやるよ”です」
私は刹那と待たず絶句した。6歳でそのようなことが言えるのだろうか。
「それは、」
「今まで言ったことは全部村の歴史書に書いてありますよ。だから言ったじゃないですか、要約すると『お兄ちゃんすごい、お兄ちゃん万歳!』だって。この村でお兄ちゃんの悪口は止めた方がいいです。最悪、農具持って襲われますよ」
「それは言い過ぎだろう。たかが一人のことでそこまで」
「本当です。お兄ちゃんがいない間ですが、新しく来た流民がお兄ちゃんのことを馬鹿にしたそうです。その人はその日のうちに葬られたそうです。村長さんなんかお兄ちゃんが騎士止めて帰ってきたら村長の座を明け渡す、なんて明言していますしね」
・・・この村は異常だ。村全体がたった一人に心酔しているなんて
「と、重い話はここまでにしましょう」
リリの纏っていたほの暗い何かがパッと消えた。こういう所、レイジーに似てる。
「お兄ちゃんの落とし方講座ぁ!・・・どうせ無理でしょうが(ボソッ)」
おおぅ、いきなりだな
「お兄ちゃんを落とすに当たりの準備すべき事。その1、異常なまでの鈍感さを打ち破るド直球な告白。お兄ちゃんは微妙に頭のねじがおかしいです。幼なじみに『好きです!』と正面から言われても『俺も好きだぞ。友達として』なんて言葉を平然と返す人です。因みにその男の子大泣きしました」
「それ以上のド直球な告白ってあるのか?ってか、男かよ!ならその返しは妥当だよ!」
「ふふっ、嘘です。ちゃんと女の子ですよ」
「女の子でも大問題だけどな。次は?」
「ないです」
「はい!?ないの?あれだけ盛り上げて」
「はい。あれはおちょくりのための前振りですから」
「お前本当にレイジーの妹かよ」
あの兄からしてこの妹は考えにくい。まぁ冗談だが
「あぁ?」
リリの纏う雰囲気が変わる。村娘から歴戦の兵士に
「じょ、冗談だ」
「ならいいです。もう本気にしちゃったじゃないですかぁ」
レイジー攻略の最後の敵はリリだな。
それから2日が経った。私は早く王国に戻りたかったのだがレイジーに押しとどめられていた。その間ずっと温泉に入っていたが、魅力にすっかり取り憑かれこの村への再来を頭の中の予定にしっかりと書き込んだ。
「レイジーそろそろ出よう」
「そうですね。あ、ちょっと待って下さい」
レイジーがリリからメダルのような物を受け取る。あれは確か・・・
「あ、騎士証明のやつではないか。常時着用が義務だったはずだが?」
「いやぁ一度帰郷したときに忘れちゃいまして」
テヘヘと頭をかくレイジーに何か言ってやろうと思ったが、村人の目が少し危うくなっていたので止めた。リリの言っていたことは本当だったか
「おい、頼まれた物だ」
そう言って鍛冶師の人が大剣を渡してくる。刃渡りは前使っていたのと同じくらいだ。
「私は頼んでいないが・・・」
「レイジーから頼まれた。おそらくこの世界でも数えられるほどしかない武器の一つだ。レイジーに感謝するんだな」
レイジーは鞘に入った細長い剣を渡されていた。細剣ではないようだ刀身が逸れている
「ん?あぁこれは刀っていうんですよ」
「へぇ~。あ、そうじゃなくて、これ!」
「団長、敵国に捕まったとき装備全部取られたじゃないですか。その代わりです。俺からの贈り物ですよ」
これは贈り物なのか。“レイジーから”の贈り物か。たとえ折れても絶対に捨てない!
「そういえば、この服やけに軽いし丈夫だし」
「蚕の繭から作った物です。いや、テルナ虫だったかな」
「最高級の素材じゃないか。なんでそんな」
「贈り物です」
これ王国に帰ったら大事に保管しよう。
「ちゃんと来て下さいね」
よし二人きりの時に着よう!
「ちなみに剣の方はオリハルコンで出来ているのでかなり高性能なはずです」
「オリッ!?」
噛んだ・・・。超痛い。私の知る限りオリハルコン製の武具は近隣諸国併せて7だったかな?一つで国が買えるとも言われるほどだ。
「さ、出ますよ」
「わ、分かった」
国宝級の武具と最高級の服を着て私たちは王国に向けて再出発した。馬は1つ、私はレイジーの腕の中だ。腕の中だ。これ超重要!!