red~編入その二~
ぐぬぅ、文字数が延びない......
話が進めば、ちゃんと書けるようになるのだろうか......?
学園の校門前に、今まで滑っていたかのような静けさで止まる黒塗りの車。
どっしりとしたその姿は世界の常識なんてものが、明後日の方向に吹っ飛んでしまっているこの、特異な学園島の中でさえ一際異様な存在として君臨していた。
サイドガラスには厚いスモークが張られ、たとえ透視能力を持つ者がその能力を行使したとしてもガラス自体に混ぜられたアンチ効果を持つ物質に遮られ、中をうかがい知ることは出来ない。
そう、何人たりとも犯すことは出来ないのだ。
故に......
「お嬢様!! 起きてください、お嬢様!」
「うむにゃ......あと三時間......」
「学校が終わってしまいますよ、それでは! ただでさえ初日から遅刻という大惨事を引き起こしているのですから......ああもう! 仕方ありませんね、こうなれば......」
よだれを垂らした美少女が半分以上眠ったまま、お付きらしい男に髪型のセットや、服装を整えられているという醜態が外へと漏れ出すこともないのである。
「ほらお嬢様、体を起こして。 車から出ますよ、頭を打たないように」
「うみゅ......」
お付きの男は車から飛び出し、日傘を広げる。
そしてそれを学園の生徒たちと車のドアの間に差し込み、今まさにのっそりとという表現が似合う様子で車から這い出てくる少女を隠した。
ようやく少女が一人で立ち上がり、ひと段落かと男が安心の吐息をこぼした。
若干、足取りが怪しいが何とか歩きだした少女の横に並ぶ男。
「しっかりしてください、お嬢様。 そのようなお顔でご学友の方々に挨拶する気ですか?」
「......うむ、もう大丈夫じゃ。 だからもう少し時間をくれい」
「本当に大丈夫だろうか......」
ガヤガヤと教室の中から話し声が聞こえてくる。
さすがに、目的の教室の前まで来れば目も覚めるらしく、少女はしっかりとした歩調で歩いている。
「行きますよ」
「う、うむ」
コンコンコン、と1ーSというプレートの表示された教室にノックの音が響きわたり、横開き式のドアが開かれる。
「失礼します」
「失礼します」
その声を聞いた瞬間、彼女の心臓が飛び上がらんばかりに跳ねる。
彼女、雛見沢美紀は入ってきた人物から目を離すことが出来なくなっていた。
より正確に言えば、入ってきた二人組のうちの片方。黒髪で眼鏡をかけている青年からだ。
まさか......でも......、そんな想いが美紀の脳内を駆け巡り、
「じゃあ~、とりあえずは~自己紹介から~」
1年Sクラス担任である冴子の言葉で現実に帰還する。
金髪の小さな、可愛らしい女の子がカツカツと音を立てながら教卓の付近に立つ。
黒髪の青年はその女の子に半歩譲る感じで、斜め後ろに立っている。
美紀がそちらに再び目を奪われるより、数瞬早く女の子が口を開いた。
「我が名はエリス=ヴォルフ=ニア=カーディナル。 今日からこの学びやで共に過ごすことになる。 今後ともよろしゅく頼む」
「と、お付きの藤沢京介と申します。お嬢様共々よろしくお願いいたします」
(噛んだ)(噛んだね)
皆が顔を赤くしているエリスに生暖かい視線を向ける中、美紀は溢れてくる涙を抑えることに必死になっていた。
(また...........また、会えたね、京ちゃん。)
「ちょっと、美紀。 どしたの?大丈夫?」
「うん、ゴメンね。 だいじょうぶだから......」
突然、嗚咽を漏らしだした美紀を隣の席に座っている生徒が心配するも、自己紹介が終わり二人が決まった席に着くまで彼女の涙が止まることは無かった。