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鳳雛の皇  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
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一、刺客(3)

 少女の姿が見えなくなったのを確認し、改めて宿屋を捜す。

 大通りの先にそれらしき看板を掲げた建物を発見し、ウェルティクスはそちらへと進路を変えた。

 と。

「………………?」

 ――ざわり。

 街を抜けてゆく風の匂いが――不意に、変わったような気がした。

 ざわ、ざわり。

 茂みの葉が擦れ合う音に、先程までとは異なり、何か厭なものが混じる。

 何処か湿っぽい、まとわりつくような感覚を覚え――青年はその足をぴた、と止めた。

「……場所を、変えようか」

 誰へともなくそう呟くと、彼は街外れの廃屋へと歩みを進める。

 ざわ、り。

 そして、彼を取り囲むかのように幾つもの、姿なき気配が動き出す。

 ――ぴた。

 廃屋の前で、青年の足が止まる。

 そして振り返りもせず、淡々とこう告げた。

「なにか――私に御用でも?」 

 凛とした声が朗々と、狭い廃屋に響き渡る。無論、返事はなかった。

 ざわざわ、ざわ……。

 不自然に静まり返った廃屋は、尚更に薄気味悪く、厭な空気を纏っていた。

 ねっとりと青年を包み込む、息が詰まるような不快感――殺気、と呼ばれるものだ。

 そして、

 ――ざあっ、

 一陣の風が吹き抜けると同時に、それらは動き出す。

 幾つもの黒影がざっ――と姿を現し、一瞬にして青年を取り囲んだ。

 黒衣の集団が、じっと青年を注視している。視線は獲物を狙う獣のそれによく似ていた。

 青年はその状況に驚いた様子もなく、僅かに眉を潜める。右手が腰へと流れ、指先にかつ、と剣の柄がちいさく響いた。

 その感覚を確かめ、彼は口の中で何かを呟く。

 と、

 重厚な足音が石畳を通じて、ウェルティクスの足下にも響いた。

 集団の中でもひときわ大柄な男が彼の前へ歩み出で、押し殺したような低い声で――こう尋ねたのだった。

「その、首もとの『聖痕』……。

 フォーレーン王国、ウェルティクス第三王子に相違ないな?」

 男の言葉に含まれた響きは疑問ではなく――確信。巨岩のように大きな体躯のその男は、黒衣から覗く鋭い眼光を金髪の青年に向ける。

「……だとしたら、どうだと言うのです?」

 肯定も否定もなかった。

 いやに落ち着き払った様子で、青年――いや、王子ウェルティクスは目の前の大男に問い掛ける。不自然なまでに、穏やかに。

 ぴん――と張り詰めた静寂が、鉛のような重圧となってその場を支配する。

 何かを思案するような短い沈黙の後、大柄な男はその手を背の獲物へと伸ばした。そして、ウェルティクスをぎっと睨め付け――

 こう、言い放った。

「何故、おめおめと自ずからこの様なところに来たかは知らぬが……

 その命――頂戴する」

 男の声を合図に、無数の影が一斉に飛びかかった。

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