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鳳雛の皇  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
35/38

四、鳳雛の皇(34)

 さらり。

 ヒカリの旋律が奏でる悪戯。肩に落ちた金糸の髪に、桜色の唇に、そっと陽光の瞬きを落とす 。

 凛と前を見据えるウェルティクスの横顔が、不意に新たな表情をみせた。

 『フォーレーンの王子』らしい、気高く聡明なあの面差しの中から覗く微笑は――

 寧ろ、伝承歌にその姿を見る聖乙女のようであったかも知れない。

「大丈夫ですか?イルク」

 その藍玉の双眸がこちらを見ていることにイルクが気づいたのは、永い沈黙が場に流れて暫く してのことだった。

「う、うむ……平気だ」

 我に還り、彼はちいさく頷く。珍しく早口に告げる声が途中、不自然に上擦っていた。

 ふいと顔を逸らすイルクの頬に、僅か朱の色彩。

「……イルク?」

 その様子にウェルティクスは首を傾げ、上気した顔を覗き込む。

「ッ!否、何でも――」

 ――見惚れていた、などと。

 まさか本人を目の前に、言えようはずもなく。

 魚のよう口をぱくぱくとさせる彼の口から、巧い方便は生まれてこなかった。

 そんな二人の様子を眺めていたファング。余程可笑しかったのか、大袈裟に腹を抱えて破顔一笑した。

「くっ……はっはっはっは!!

 ――成程、なぁ。そういうことかよ」

 ひとしきり笑うと彼は大剣を鞘に収め、くるり、と二人に背を向ける。

 勿論――イルクへと意味ありげに、一目くれるのも忘れずに、だが。

 ファングの不可解な行動にウェルは眉を顰め、おず、と尋ねる。

「……あ、あの……?」

「気が変わった」

 無造作に短い言葉を投げつけたと思えば、ファングは二人に背を向け歩き出した。

「俺の標的は『ウェルティクス第三王子』だ。

 ――アンタじゃねぇよ」

 振り向くことなく、軽く片手を挙げる。

「楽しみはとっとくもんだろ?」

 ――それに、女を斬る趣味はねぇな。

 愉快げな物言い、最後にぽつり独りごちて。

 そのまま彼の姿は、一陣の砂嵐と共に何処にか消えていたという。

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