表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳳雛の皇  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
33/38

四、鳳雛の皇(32)

 ずん、と重い音。

 土埃に沈む男を一瞥し、ウェルティクスは軽く息を吐く。

 向かい来る敵を斬り捨てるレイピアに、うっすらと血油が浮かんでいた。

 つまり――それだけ数多くの暗殺者を仕留めたことになる。

 周囲を取り囲んでいた暗殺者は、僅か数名を残すのみ。中には逃走を図る者すら現れる始末だった。

 ウェル殿――と呼びかける、よく知った声。

 視線を飛ばせば、そこには大剣を携えたイルクの姿。あちこち返り血に染まっているが、大きな怪我はないようだ。

 口を開き、相手の名を安堵の響きに乗せようとして。

「っ、イルク……!」

 巨漢の背後から、彼を狙う刃がぎらりと閃くのを視界に捉えた。

 はっとして切っ先を突き出す――が。

 ――間に合わない……!

 しかし、暗殺者の進路は不意に何かに阻まれる。

 レイピアの剣線は、間一髪というところで暗殺者を仕留めていた。

「……く!すまぬ、ウェル殿」

「いえ、何も無くて何よりです……しかし、今のは」

 敵を妨害したそれに、ちらと目を向ける青年。

 岩に突き刺さり、鈍い光を湛えたそれは、イルクのそれとよく似た大剣であった。

 剣が飛んできた方角を確認すると、こちらへゆっくり歩み寄る人影がひとつ。

 その姿にウェルティクスは、やはり――とちいさく頷いて。

「油断してんじゃねぇよ、ここは戦場だぜ?」

 大剣をぐいと引き抜いて、ファングは顎をしゃくってみせる。

 軽い挨拶のような仕種。

 が、一寸の隙を見せないその姿勢は、既に臨戦態勢に入っている事を意味していた。

「余興が長引いちまった、早く始めようぜ?」

 ――いい加減待ち草臥れる。

 得物を肩に担いだファングは、く、と喉の奥で笑みを零す。

「……どうしても、戦う――と?」

 ちらりとイルクを一瞥し、重く問いかけるウェルティクス。

 ファングは心底呆れ返ったという顔で、大仰に溜息を吐いた。

「甘っちょれぇ事言ってんなよ、王子さん。

 これはもう、パニッシャーとあんたの問題じゃねぇ。俺とアンタ等の意地って奴さ」

 ――互いに退けねぇ、な。

 不意に浮かんだ表情に、自嘲の色が滲んだのは気の所為だろうか。

 しかしそれを確かめるより早く、ファングは担いでいた大剣をぶん、と振り落としていた。

「御託はもういい。始めようぜ」

 ファングの言葉に青年は碧色の双眸を伏し、観念したようにレイピアを構え直す。

 イルクに目配せをすれば、彼もまた、頷いて大振りの剣を構え直した。

「そうこなくっちゃな」

 不敵に笑う『刀牙』。そこに剣を構え直す様子はない。

「……うぉぉぉぉっ!!」

 最初に動いたのはイルクだった。

 雄叫びとともに大剣を振り上げ、ファングへと斬りかかる。

 ファングのシルエットはそれを紙一重でかわし、大剣を地面へ突き刺す。

 次の瞬間には、柄に手をかけ高く地を蹴った。レイピアの一閃はぅん、と空を斬る。

 空中から放ったファングの蹴りが、再度斬りかかろうとするイルクの肩を捕らえた。

 がっ!

 反動を利用し、そのまま勢いを落とすことなくウェルティクスへ蹴りが飛ぶ。

 ばっと後ろに飛び退いて蹴りを避け、金髪の青年は何とか間合いを確保した。

「くっ……くくくっ……やっぱり――な」

 嬉しそうな声音には、ほんの少し狂気の色も垣間見れたかも知れず。

「ラゼル以来だ。

 ――本気で戦えるのは」

 にぃ、と。

 深くファングの口元が笑みを象った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓ランキング参加中 気に入ったらぽちっとお願いします
アルファポリス(週1回)
NEWVEL
長編小説検索Wandering Network

ブログもだらだら更新中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ