四、鳳雛の皇(31)
次々に崩れ去る同胞を目の当たりにして、男の身体は次第に震えはじめる。
その心を支配していく感情――恐怖、と呼ばれるそれだ。
――数では、圧倒的にこちらの方が有利だった。その、はずだったのだ。
思惑が完全に外れたことによって、男の頭脳は真っ白になる。最早、幾ら考えても、何の作戦も弾き出されてはこなかった。
「ば、馬鹿な……?たった、三人だぞ……何故」
――ゴルダム様に報告せねば。
震える肩を無理矢理抑え、男は踵を返す。
しかし。
「何処行く気だ?腰巾着」
じゃっ!
視界を、行く手を遮ったのは――目前に振り下ろされた大剣。
これまでに、幾人の血を浴びてきたのだろうか。黒光りする刀身が、鈍い光を放っていた。
腰巾着と呼ばれた男の肩が、跳ね。反射的に数歩後退る。
膝が笑っているのが感じて取れ、不快な感覚に顔を歪めた。
「ファング……くっ」
「人数集めても雑魚は雑魚だな。
テメェとの腐れ縁も、ここらで仕舞いにしようぜ」
ファングの台詞を合図に、両者がほぼ同時に動く。
男が懐からナイフを取り出すより早く、ファングの大剣が咆哮をあげた。
どさ……、と。
土埃を立て、倒れゆく屍を視界の隅に捉えて。
「……つまらねぇんだよ。俺等の世界は殺るか殺られるかの二択。
楽する奴から潰されんのは判ってたコトだろ?」
苦々しく、そう吐き捨てる。
ファングの視線はつい、と、金髪の青年――ウェルティクスへ向けられた。
「楽しませてくれよ?王子さん。
俺を殺せるのは――アンタかもしれねぇんだからよ」
くく、と可笑しげに笑い、ファングはウェルティクスへと歩き出す。
一歩、また一歩と歩を刻む間も、絶えず向かってくる『雑魚』は無造作に斬り捨て。
視線は一点――恰好の標的を見据えたまま。
にぃ、と、口端に浮かべた笑み。それは、或いは。
楽しいパーティーを待ちかねていた子供のように。無邪気な感情表現だったかも知れない。