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鳳雛の皇  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
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三、刀牙(21)

 本来諦めていたルートが使えるという事実は彼、そして王都へと急ぐウェルティクスにも朗報となる。

「いや、僕達も馬屋への道を教えて貰うのだし、お相子さ」

「とにかく、早く馬屋へ行こう。時間もないからな」

 ばさり、と漆黒のマントを翻し。すたすたと勇み足をする連れに、後ろからおい、と通る声が追う。

 奇妙な二人組を案内すべく、前方へ出ようと一歩進んだイルクの視界の隅で――

 がた、と、何かが動く。

 見上げれば、商店のベランダに置かれていた小さな植木鉢が風でバランスを崩し、黒いシルエットを目がけ落下しようとしていた。

「っ!?あ、あぶな……」

 駆け出すイルク。だが、植木鉢の落下速度のほうが速い。

 間に合わない――そう思えた。

 ところが、

「何だ?」

 まるで何事もなかったかのように落下する植木鉢を避け、くるり、と後ろを振り返り連れへと声をかける黒いマント姿。

 連れの方もさして驚いた様子はなく、

「気をつけろよ」

「そういうことは、もっと早く言ってくれ」

 平然と会話する二人にイルクは思わず、絶句して立ち竦んでいた。一歩踏み出そうとした、その格好のままで。

(本当に……目が見えておらぬのか?)

「そうではなくて。僕はいいけど、他の人は驚くだろう?」

 唖然としたままのイルクを視線で示して、頭を抱える細身の旅人。銀の髪がくしゃ、とないた。相手は漸く意図するところを理解したのか、ぽむ。と手を打ちこくり頷く。

「ああ、成程。驚かせてすみません。

 どうも僕は、視力を失った代わりに他の五感が鋭くなったらしくて。風の動きや気配である程度のことは察知できます」

 のんびりと笑みまで浮かべ、彼はそんなことを言ってのける。

 しかし、それがどれだけ高度なことであるか、ある程度戦の経験を積んだ人間なら理解できるだろう。

「そうであったか。

 だが、視力を失う以前に貴公自身にその潜在能力がなければ成せぬ所業であろうな」

「あはは。運が良かっただけですよ」

 イルクの言葉に、彼は苦笑して答えた。

「そうだな。君は昔からしぶとかったから」

 がく。

 後ろから飛んだ涼しいツッコミに、盲目の青年は体制を崩す。

「しぶといはないだろう、しぶといは」

「違うのか?」

 当たり前の顔で、紫色の瞳を数度瞬いて。相手はといえば軽く頭を抱え、諦めたようにもういい、お前ってそういう奴だよな――などと漏らした。

 その後も三人は、ぽつりぽつりととりとめのない言葉を交わした。

 但し、喋っているのは殆どが黒いマントの青年で、その連れが相槌――或いは突っ込みを入れていた。イルクは特に喋るでもなく二人の会話に耳を傾けていたが、その空気に何処か、居心地の好さを覚えていた。

 フォーレーンの民には特有の風を纏った人々が居るという。彼等もまた、きっとそうなのだろう。

「ここを曲がれば、もう直ぐ馬屋だ」

 目的地が近いことを告げ、イルクは二人を案内する。

 しかし次の瞬間、その表情が厳しいものに変わる。群集の中に――ひとつのシルエットを捕らえて。

 長く伸ばした髪を無造作にバンダナで束ね、使い古されたマントを纏った男のぎらぎらとした視線が、巨漢を射抜いている。

 比較的小柄な体格でありながら、大通りの人波の中で一際存在感を放つ男――パニッシャーが誇る四天、『刀牙』ファング。

 くるりと踵を返し、脇の路地裏へとその姿が消える。

「……っ!

 すまぬが急用が出来た、案内はここまでだ。馬屋は三軒先にある」

「あっ――」

 一方的に告げ、ファングの後を追って走り出す彼。

 呼び止める声も虚しく、その大きな背中は遠ざかり、行き交う人々の中へと溶けた。

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