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鳳雛の皇  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
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二、闇の片鱗(16)

 パニッシャーのアジトを背にして足を進めていたファングは、不意にそこで足を止めた。

「――おい」

 先程よりも濃く落とされた建物の影で、その顔色は伺えない。

「そこに隠れている奴、好い加減出てこい。気分悪ぃんだよ」

 吐き捨てる口調からは、不機嫌そうな表情が想像できる。その声にす、と黒い人影が姿を現した。

「ッ、流石は四天ファング。気付いていたとは……」

 その声色には、少なからず動揺の色が伺える。

「気配を隠すのが下手なだけだろう。

 何の用だ?こそこそと俺の後を付け回しやがって。俺に、んな趣味はねぇぞ」

 そんな相手を見ようともせず、鼻で笑い揶揄するファング。

「な……!?き、貴様の監視をするよう命を受けたまでだ!」

 挑発的な態度に、上擦った声でそう返す。

 同じパニッシャーの暗殺者ではあるようだが、その醸し出す空気はファングとはまるで異なっていた。

 ファングはぴくり――と眉を動かし、

「この俺を監視……だと?貴様が?

 ハッ、巫山戯るなよ。貴様如きに俺の行動を制限できると思ってんのか?」

「き――貴様ッ、ゴルダム様がお決めになった事に従えぬと言うのか!

 いくら貴様が御館様のお気に入りであったとしても、今はゴルダム様がパニッシャーを任せられて……」

 暗殺者とは思えないほど声を荒げる相手を眺めるファングの双眸は、蔑みの色に満ちて。

「黙れ、腰巾着。

 この俺を従わせたいなら権力じゃなく、実力で示すんだな」

 指をくい、と自分に向け挑発する彼には応じず、監視役とやらは憎々しげに舌を鳴らすのみだった。

 挑発に乗らなかったのではない。……乗れなかったのだ。

「できねぇ、だろうな。

 俺を倒せるとすれば、共にパニッシャーの『四天』と呼ばれたラゼルにセリオ、ディック――それか御館様ぐらいだ。

 ゴルダムだと?あんな寄生虫に俺が殺れるとでも思うのか?

 奴にできるのは精々、御館様を得意の三枚舌で丸め込むくらいだろうが」

 くくっ――と、喉で嘲笑う。

「貴様!ゴルダム様を呼び捨てにしたばかりか、き……寄生虫などと!!」

「文句があるならかかってこい。相手になってやる。

 それからゴルダムに言っておけ。

 ……俺もラゼルも貴様になど従わねぇ、俺達の主は御館様だけだ――ってな」

 『刀牙』と称された男の、ぎらぎらと輝く虎目石のような双眸には、全てを圧倒するような迫力が放たれていて。

「くっ、ただで済むと思うなよ……!」

 気圧されながらも裏返りそうな声で精一杯吠えると、黒いシルエットは黄昏の中に姿を埋めた。

 そこで初めて、ファングは日が落ちてしまっていることに気づく。

 西の地平線には仄かな光がまだ残っているものの、東の空を仰げば白く点々と星の地図が瞬いている。

 これだけ星が見えるのなら、夜でも馬を駆ることはできそうだ。

 しかし。

 ――つまらねぇ。

 そう呟き空を仰ぐファングの瞳は、何処か喪失感に満ちていた。

 零れた砂を掬うように、肉刺だらけの指は無意識に虚空をなぞる。

「昔は、もちっとマシだったぜ?

 なぁ――何処行っちまったんだよ?御館様――」

 噛みしめるように瞼を伏せれば、彼の脳裏を過ぎっていく顔がふたつ。

 そのうちのひとつは、標的でもある王子ウェルティクス。

 そして、もうひとつは――

「俺の渇き――ちったぁ潤してくれよ?

 ……イルク」

 ふ――っと。

 口の端だけで笑みを浮かべ、彼は馬の元へと急ぐ。

 その姿はまるで、この後にある楽しみを待ちきれない、と言わんばかりだった。

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