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鳳雛の皇  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
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二、闇の片鱗(13)

 ばたむっっっ!!!

 部屋のドアが荒々しく開けられ、一つの大きな影が飛び込んできた。

「――そこまでだ!!」

 刺客の後ろから聞き慣れた声が響く。同時に大剣が唸りをあげる。

 一瞬の閃光を紙一重で避わし、刺客は窓辺へと身軽に飛び退いた。

 すると、大剣を手にした彼の人物――イルクは、ウェルティクスと刺客の間に割って入り、剣を構え直す。

「無事か?ウェルティクス殿」

 振り返らず、刺客を睨み付けたままウェルに問いかけるイルク。

「遅くなってすまぬ。廊下で他の一団と遭遇し、時間を取ってしまった」

 事情説明をしながらもイルクの目は、その刺客をじっと捕らえていた。

 そしてウェルティクスを庇うようにじり、と間合いを詰めていく。

「……まさか、ターゲットの護衛兵にお前がいるとは思わなかったな」

「…………!?」

 深緑に身を纏った刺客の声を聞いた瞬間、イルクの表情が一瞬にして、驚きの色に塗り変わった。

 あれ程無機的な態度を見せていた彼が、そのとき、確かに狼狽えていた。それは後ろから様子を見ていた青年にも直ぐに感じ取れた。

「久しぶりだな。その大剣、馬鹿デカい身の丈。サンプルNo05、お前だろう?

 死んだと報告を受けていたが……生きていたのか」

「――……!!

 や……やはり。スペリオル、貴方なのか」

 剣は下ろさぬまま、その影に投げかけた言葉は何処か複雑そうな印象を受ける。

 ――できることなら、会いたくはなかった。

 そう、イルクの表情が語っていた。

 会話の内容から察するに、互いのことを良く知っているようだ。

 ウェルティクスは成る程――とちいさく呟く。

 腑に落ちた。

 あの刺客の戦い方とイルクの戦い方が酷似していたこと。彼が刺客をスペリオル――上官、と呼んでいたこと。あの者が、イルクに剣を教えたのだろう。

 スペリオルと呼ばれた男はといえば、何故か愉しげにイルクを眺めていた。

 数日前のあの朝、街でその名を呼んだ際に見せたイルクの穏やかな表情を不意に強烈に思い起こし、ウェルティクスの表情が僅かに曇る。

 ――だと、したら……彼にとって、この再会は。

「イル……ク?」

 重い空気の中、彼の唇は、思わずその名を紡ぎだしていた。

 その呟きを拾ったのだろうか、スペリオルと呼ばれた暗殺者はふっと笑みを零し、

「そうか……それが今のお前の名、か」

「スペリオル――」

 その名に戻ったのだな、と男は小さく独りごちて、イルクに穏やかな視線を送る。

 と、

「……ふっ…ははははははっ!!」

 心底可笑しそうな男の笑い声が、小さな部屋に反響した。

「しかし、お前を倒した王子さんがどんなものかと興味を抱いて来てみれば、まさかお前が裏切っていたとはな。

 鳳雛の王子と、臥竜の大剣か。楽しめそうだ――」

「――ッ、スペリオル!?」

「今日のところは一旦退く。また会おうぜ、

 ……『イルク』」

 それだけ言い残すと、黒き影は窓の外へと身を躍らせた。

 去り際、月灯りが仄かに、その深い緑のマントを、そして素顔を照らし出す。

 その素顔はやはり、若い二十代くらいの男だった。鋭く釣り上がった双眸に、口端に浮かべた残酷な笑み。

 特に暗殺者に珍しい面差しという訳ではないものの、ぎらぎらと輝く瞳がいやに印象に残る――そんな男であった。獲物を狩る豹か獅子のような、その瞳が。

 窓辺に駆け寄ったイルクは、闇に溶けゆく男の姿を複雑な面持ちで見つめていた。

 そんな彼から少し離れ――、簡素な造りの扉に背を預け、苦い再会を目の当たりに静寂を保つ青年の姿。

 己を中心に、行く先々で大嵐が吹き荒れようとしている――

 自らが台風の目なのではないか。そんな思いが払拭できず、彼はただただ、苦虫を噛みつぶすよりなかったのだった。

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