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イケニエとカミサマ  作者: 神崎みこ
番外編
10/12

03・はこにわ

与えられた部屋で、与えられた家で、それ以外は何も知らなくても、あたしは満足している。

欲しないようにしているわけじゃない。

あたしはただ、ここにいれば十分なのだから。




 礼奈がここへたどり着いてから、ゆるやかに、だが徐々に時は過ぎていっている。

それは何かが運んだ雑誌や、幾度もめぐる季節から礼奈にでも感じることができる。

だからといって、それを外へでて確かめようとする気になったことはない。

わずかな好奇心がないとはいえないが、それも外で流行している甘い菓子類がどういったものか、といった程度のものだ。

男のもとを離れる気はまるでない。

例えそれが滅びの道だとしても。


「外、出たくねぇーのか?」

「別に」


たまに繰り返される男とのやり取りに、礼奈はつまらなさそうに答え、彼の背中に寄りかかる。

ここにいる、と決めたのは彼女自身だ。

偶然ここへたどり着き、たまたま彼の気持ち一つで生かされていただけだとしても、礼奈は自分の気持ち一つでここにある、という自負を捨てたこと、はない。

必要とされなくなるまでここにいよう。

そう決めた気持ちは揺るがない。


 そこここで何かがうごめき、去っていく。

時折立ち寄り彼らをからかっていく男と同等の「何か」以外は、迷い人しか訪れない敷地で、今日も礼奈はゆるゆると男と時を過ごす。

同級生たちと他愛もないことで騒ぎ、狭い範囲で見下したり見下されたりしていた日々は既に遠い。

親しい友達どころか、親族さえいない礼奈にとって、彼はおそらく最初で最後に出来た、父であり兄であり、恋人である。

冷めた外見からは程遠いような情念で、彼に寄り添う。


「まだ、日が高いけど?」


組み敷いた男を見上げる。

感情を表さない瞳に、礼奈の姿が映りこむ。

あの時と変わらず、これからも変わらない礼奈は、それでもひどく艶を帯びている。

空っぽの顔だけはよいお人形さんだったあの頃の彼女はいない。


彼女の言葉は、男の唇によって吸い込まれていった。

お題配布元→http://noir.sub.jp/cpr/ capriccio様

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