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わすれもの  作者: 水瀬
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01:新暦825年 5の月

身分違いの片思いに、下級貴族の少女が泣くお話。

それぞれ誰かのためを思って動いているのだけれども全くうまくいかない話。

バッドエンド予定。全5~6話ほどでまとめる予定。

 これは恋の話。

 表には決してあらわれることができないまま、消えてしまった話。

 裏側に存在していた恋の話。





「全くもう!嫌になっちゃうわ!」


 ふん、と腕を組み、さらさらと色鮮やかな赤金色の髪を結い上げた女性は綺麗に化粧のされた顔をゆがめた。

 深緑色の瞳は怒りと不満で染まっており、気の強そうなその表情を際立たせている。

 そんな幼馴染である公爵令嬢エリノーラの言葉に、この国の第三王子であるドゥウェインは困ったように笑った。


「仕方ないじゃないか。だってほら、我が国一の大公爵家である君の家で唯一売れ残り――あー、嫁ぎ先が決まっていない存在なんだから」

「余計なお世話だってのよ!」


 君が嫁いできたとあったら格も上がるし、公爵家からの便宜も期待できるし、持参金も高いだろうし?

 くすくすと笑ってそういう王子をエリノーラはぎろりと睨みつけると、心底不快そうに息を吐いた。絶対結婚なんて嫌よ。面倒だし、きっと色々口を挟まれるんだわ。私は他人に――それも頭の悪そうな奴に自分の研究に口を挟まれるのが大嫌いなのよ。

 この国の植物を全て調べ上げて見せるわ!と胸を張っていた当時の幼い少女を思い返し、ドゥウェインは頭をかいた。この女性は、幼少時より一貫して変わろうとしない。

 けれども、いつまでもそうしていられるほど貴族世界は甘くはなく。

 でも、目の前の歯に衣着せぬ物言いの幼馴染には幸せになってほしかったので。

 王子ドゥウェインは策を練ったのだ。


「――で、実はエリノーラに言ってなかったことがあるんだけどさあ」

「…何よ」


 今までの経験則から、さわやかなドゥウェインの笑顔に嫌なものを感じたらしいエリノーラが一歩後ずさる。

 そんなエリノーラに、ドゥウェインはどこまでも爽やかな笑顔を浮かべた。


「実は今日はさ、エリノーラの婚約披露パーティなんだよね!」


 その言葉を聞いた瞬間、くるりと背を向けてその場から退却しようとしたエリノーラは、何かに衝突し、ぶつけて痛む額をおさえた。

 そうしていったい何に衝突したのかと顔を上げ、そこにいた見知らぬ男性の姿に首をかしげた。

 首を傾げたところで、それどころではないと思い出したエリノーラは謝罪をしてその男の隣をすり抜けようとしたのだが―――腕をつかまれ、進めない。

 離してよ、何なの、と再び見上げたエリノーラの後ろで、ドゥウェインが「よくやった」と声を上げた。


「ああそうだ、ちなみにエリノーラ、彼が君の婚約者だから」


 振り返らずとも幼馴染が満面の笑みを浮かべているだろうことが予測できたエリノーラは、思い切りこめかみをひくつかせた。

 逃げ出そうにも、腕は強くつかまれ、先ほどのドゥウェインの言葉を耳にしたらしい諸侯たちが近寄ってきている。

 怒りにひきつりそうな口の端を無理やりに吊り上げて、エリノーラは周囲に笑顔を向けた。外面ぐらい取り繕えないで、貴族などやっていられないからだ。





 パーティが終わり自室に戻ったエリノーラは、ばさりと羽織っていたショールを投げ捨て、髪をまとめていた飾りを引き抜いた。そうしてきらきらと輝く宝石がいくつもつけられたそれを机に投げる。

 柔らかな数人がけのソファにどしりと腰を下ろしたエリノーラは、やっと息がつけるとばかりに大きくため息をついた。

 そんな令嬢の姿に、大人しい色合いの規定の制服に身を包んだ侍女が静かに近寄り、柔らかな笑みを浮かべた。


「お嬢様、お疲れ様です」


 なにやら今日は普段よりもお疲れのようですけれど、何かあったのですか?と穏和な表情を曇らせる侍女に対し、エリノーラは言葉を詰まらせた。

 自らの主人が困っていることを察した侍女は、紅茶の準備をしながらわざとらしく声を上げた。


「あ、そういえばお嬢様、ご婚約おめでとうございます。私も先ほどお聞きしたのですけれど、今の今まで秘密だなんて、びっくりしました」


 その侍女の言葉に、ぐったりとソファにもたれかかるエリノーラ。

 その様子に、侍女はぱちりと瞬きをした。もしかして、お嬢様のこの状況って…という侍女の呟きに、エリノーラは投げやりに返事をした。その通りだと。


「あの、お相手の方って…」


 そろそろと伺うように問いかける侍女の言葉に、エリノーラは視線をそらせると、小さく相手の家名を答えた。


「サイラス・プレスコット。あのプレスコット家の長男よ」


 現実逃避交じりに外を眺めていたエリノーラは、そのためその瞬間の侍女の表情に気がつかなかった。

 普段は無邪気な、笑顔を浮かべている侍女の表情が、一瞬衝撃に固まったのを。


「―――おめでとうございます。素晴らしい、ご縁だと思います」


 ひきつりそうな顔を気力でごまかし、エリノーラ付きの侍女であるセリアは完璧な礼をした。

一応この話の主人公…というかメイン視点は侍女のセリアです。泣くのもセリア。

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