『Footloose Life』第8話 運動会の日
ご覧いただきありがとうございます!
『Footloose Life』第8話をお届けします。
今回は、いつもみんなを明るくしてくれる少女・ユキちゃんとFootlooseチームの「運動会」を巡るエピソードです。
応援旗づくりからお弁当の準備、そして当日の競技まで、本気で挑むドタバタで温かな一日を描いています。
かつて孤独だった少女と、彼女を取り巻く賑やかな大人たちの交流を、ぜひゆったりとお楽しみください!
完成披露パーティーから数か月が過ぎた。
海沿いのダイナー『Footloose』には、すっかり賑やかな日常が定着していた。
朝、店内にはコーヒーの香りが漂っている。
カウンター席には、毎朝のように現れる漆黒のコート姿の男が座っていた。
保安官のクロードである。
「康児」
「なんだ」
「コーヒーのおかわりだ」
「三杯目だぞ」
「細かいことは気にするな」
康児は苦笑しながらカップにコーヒーを注ぐ。
その隣では犬型ロボットの24T2がチェリーパイをじっと見つめていた。
「お前も食べるか?」千春が尋ねる。
『私はロボットです』
「食べたいんだな?」
『違います』
「食べたいんだな」
『……少しだけです』
店内に笑いが広がる。
美咲が呆れたように肩をすくめた。
「すっかり馴染んだわね」
「巡回中に少し寄っただけだ」
クロードが真顔で答える。
「毎朝か?」
ジェミニが尋ねる。
「毎朝だ」
「もう常連じゃねえか」
さらに笑いが広がった。
その時。
店の電話が鳴った。康児が受話器を取る。
「ああ、園長先生」
その名前を聞いて、皆が振り返った。
しばらく話した後、康児が受話器を置く。
「園の運動会だってさ」
「運動会?」
「今度の日曜日」
康児は少し嬉しそうに続けた。
「園のみんなも待ってるらしい」
運動会前日。
Footlooseの厨房は戦場になっていた。
「唐揚げは俺に任せろ!」千春が腕まくりをする。
「量より栄養バランスです」と、言いながらも美咲は大量のサラダを準備している。
ジェミニはというと「見たまえ!」と叫びながら巨大な応援旗を広げた。
そこには「みんな頑張れ!」金色の文字が踊っている。
「でかすぎる」
「愛の大きさだ」ジェミニが真顔で言った。
24T2は黙々と卵焼きを巻いている。
驚くほど綺麗だった。
「うまいな」
『精密作業は得意です』
「そのうち料理人になれるな」
『進路として検討します』
保安官は誇らしげにそれを見ていた。
店内は笑いに包まれた。
そして運動会当日、青空が広がっていた。
会場へ到着した途端、ジェミニが巨大応援旗を振り始める。
「ユキちゃーん!」
「あそこ」
美咲が指さした。
園庭の向こうでユキがこちらを見ていた。
そして、ぱっと笑顔になる。その笑顔だけで来た価値があった。
最初の競技は徒競走だった。ユキは少し緊張している。
運動はあまり得意ではない。それでも一生懸命スタートした。
小さな足で懸命に走る。その姿に康児たちも力が入る。
「そのまま行け!」
「頑張れ!」
「負けるな!」
ところが、ゴール直前ユキの足がもつれた。
転んだ。園庭に小さな体が倒れる。
会場が静かになる。
ユキは痛そうに膝を押さえた。
涙が浮かぶ。
その時だった。
「ユキー!」
康児の声が響く「大丈夫だ!」
千春も立ち上がる「最後まで行けー!」
ジェミニが旗を振り回している「頑張れー!」
美咲まで叫んでいた。
クロードも立ち上がる「走行継続を推奨する」
周囲が吹き出した。
ユキも一瞬きょとんとする。
そしてゆっくり立ち上がり、再び走り出した。
結果は最下位だったが、ゴールした時の笑顔は誰より輝いていた。
そして午後、ダンスの時間になる。
音楽が流れ始めた。
するとユキは別人のようだった。
軽やかに踊る。笑顔が弾ける。
まるで妖精のように楽しそうだった。
「すごいな」康児が呟く。
園長先生が微笑む「あの子はダンスは大好きなの」
園にいる誰もが目を細めて見守った。
そして玉入れ。
綱引き。
来賓参加の競技。
気付けばFootlooseチームまで参加していた。
ジェミニは本気になり、
千春は筋肉痛になり、
美咲は意外と負けず嫌いで、
保安官クロードは異常な命中率で玉を入れ続けた。
24T2は綱引きで出力制限を命じられている。
『本気を出すと危険です』
「出すな」
全員が即答した。
昼休み。
木陰にシートを広げる。
みんなで作った弁当が並ぶ。
唐揚げ。
卵焼き。
サンドイッチ。
フルーツ。
園の子供達はみんな夢中になって食べていた。
その輪の中で、ユキも頬をいっぱいにしている。
そして、ふと顔を上げた。
「みんなと食べると、おいしいね」
静かな言葉だった。だが、その場にいる全員の胸に染み込んだ。
園長先生が優しく微笑む。
誰も何も言わない。ただ幸せな時間がそこにあった。
夕方、運動会は無事終了した。
帰り道、ベンチに腰掛けた一同は、全員ぐったりしていた。
「仕事より疲れた……」千春が呟く。
「同感だ……」ジェミニが空を見上げる。
「もう動きたくないわ……」美咲も珍しく弱音を吐く。
クロードが静かに言った。「同意する」
24T2が答える。『バッテリー残量二十二パーセントです』
「お前は充電すればいいだろ」
思わず全員が笑った。
その横で、はしゃぎ疲れたユキが、園長先生の肩にもたれて眠っている。
安心しきった寝顔だった。
園長先生はそっとその髪を撫でる。
そして小さく呟いた。
「良かったわね、ユキちゃん」
かつて窓際で一人、遠い街を眺めていた少女。
けれど今は違う。
その周りにはたくさんの笑顔があった。
帰る場所があった。
夕暮れの風が優しく吹き抜ける。
『Footloose』は今日も、誰かの居場所になっていた。
(第8話・了)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ユキちゃんの「みんなと食べると、おいしいね」という言葉、そして大人たちの全力すぎる応援劇、いかがでしたでしょうか?
クロードの異常な玉入れ命中率や、出力制限のかかる24T2など、クスッと笑っていただけていれば幸いです。
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