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大人試験

作者: 谷 風汰
掲載日:2026/07/20

 佐藤は面接室に入った。

 二人の人間がこちらを向いて座っていた。


「はじめまして。佐藤孝雄と申します」

「はじめして」


 二人は自己紹介をした。

 30代くらいの男女だった。


 佐藤はパイプ椅子に座り、背筋を伸ばす。

 女性が話し始めた。


「それでは、早速ですが、面接を始めます。まずは年齢から」

「53歳です」

「今のお仕事は?」

「無職です」

「履歴書を拝見しましたが、30代から働かれていないようですね」

「はい。働こうにも働けず、この歳になってしまいました」

「どうしてですか?」

「そりゃあ⋯⋯」


 分かりきったことを聞く。


「大人試験に33年連続で落とされてますから、そうなるでしょう」


 佐藤は女性を睨みつける。


「分かりました。では、将来の夢は?」

「野球選手です」

「好きな食べ物は?」

「ハンバーグです」

「ファミレスに行ったら何を頼む?」

「ワクワクカレー国旗付き」


 女性はため息をついた。


「じゃあ、1億円あるなら何に使いますか?」

「投資に使います」

「え?」

「投資です」


 二人は目を見合わせた。


「何の投資ですか?」

「株式投資です」

「投資して、どうしますか?」

「そのお金を増やします」

「それから?」

「不動産投資にも手を出します」

「そして?」


 女性は前のめりになった。

 佐藤は、声を張り上げて答えた。


「億万長者になって、人生逆転したいです!!」


 



 佐藤は歩いていた。

 陽射しが眩しかった。


 あの後、なぜか質疑応答はすぐに終わり、すぐに実技に入った。

 だが、それも結局駄目だった。

 

 若い男女とすれ違う。

 20代くらいで、少し大きめのスーツを着込んでいる。

 ほとんどの人は笑顔で、友達と雑談していた。

 佐藤は彼らから目をそらした.


 コンビニに入った。

 うまい棒を手に取る。

 ついでにお酒にも手を伸ばす。

 年齢も年齢だし、顔パスで行けるかもしれない。


「いらっしゃいませ」

「お願いします」


 商品を台に置く。

 店員がレジに通す。


「身分証をお願いします」

「はい」


 佐藤は緊張しつつ、店員に渡した。

 店員はチラッとそれを見ると、佐藤に向き直って言った。


「あー、あなた、まだ未成年なので買えませんよ、ハハ」


 雑な口調だった。


「すみません」


 佐藤は答えた。


 結局、酒は回収された。

 うまい棒だけだと恥ずかしいので、ブラックコーヒーも買っておいた。


「あざしたー」


 コンビニを出ると、もう夕日が出ていた。

 佐藤は立ち止まった。

 綺麗だと思った。


『最年少の合格者です!!』


 アナウンサーらしき声が聞こえた。

 ちょうど真ん前のビルに設置された、巨大なスクリーンからだった。


『東京都在住の小林銀河くん(6) 大人試験合格

 今夜は家族でワインを嗜むとのこと』


 佐藤はうまい棒の袋を空けた。

 半分だけかじった。

 スクリーンから目をそらし、両親の待つ実家に向かった。


 コーヒーは投げ捨てた。

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