大人試験
佐藤は面接室に入った。
二人の人間がこちらを向いて座っていた。
「はじめまして。佐藤孝雄と申します」
「はじめして」
二人は自己紹介をした。
30代くらいの男女だった。
佐藤はパイプ椅子に座り、背筋を伸ばす。
女性が話し始めた。
「それでは、早速ですが、面接を始めます。まずは年齢から」
「53歳です」
「今のお仕事は?」
「無職です」
「履歴書を拝見しましたが、30代から働かれていないようですね」
「はい。働こうにも働けず、この歳になってしまいました」
「どうしてですか?」
「そりゃあ⋯⋯」
分かりきったことを聞く。
「大人試験に33年連続で落とされてますから、そうなるでしょう」
佐藤は女性を睨みつける。
「分かりました。では、将来の夢は?」
「野球選手です」
「好きな食べ物は?」
「ハンバーグです」
「ファミレスに行ったら何を頼む?」
「ワクワクカレー国旗付き」
女性はため息をついた。
「じゃあ、1億円あるなら何に使いますか?」
「投資に使います」
「え?」
「投資です」
二人は目を見合わせた。
「何の投資ですか?」
「株式投資です」
「投資して、どうしますか?」
「そのお金を増やします」
「それから?」
「不動産投資にも手を出します」
「そして?」
女性は前のめりになった。
佐藤は、声を張り上げて答えた。
「億万長者になって、人生逆転したいです!!」
◆
佐藤は歩いていた。
陽射しが眩しかった。
あの後、なぜか質疑応答はすぐに終わり、すぐに実技に入った。
だが、それも結局駄目だった。
若い男女とすれ違う。
20代くらいで、少し大きめのスーツを着込んでいる。
ほとんどの人は笑顔で、友達と雑談していた。
佐藤は彼らから目をそらした.
コンビニに入った。
うまい棒を手に取る。
ついでにお酒にも手を伸ばす。
年齢も年齢だし、顔パスで行けるかもしれない。
「いらっしゃいませ」
「お願いします」
商品を台に置く。
店員がレジに通す。
「身分証をお願いします」
「はい」
佐藤は緊張しつつ、店員に渡した。
店員はチラッとそれを見ると、佐藤に向き直って言った。
「あー、あなた、まだ未成年なので買えませんよ、ハハ」
雑な口調だった。
「すみません」
佐藤は答えた。
結局、酒は回収された。
うまい棒だけだと恥ずかしいので、ブラックコーヒーも買っておいた。
「あざしたー」
コンビニを出ると、もう夕日が出ていた。
佐藤は立ち止まった。
綺麗だと思った。
『最年少の合格者です!!』
アナウンサーらしき声が聞こえた。
ちょうど真ん前のビルに設置された、巨大なスクリーンからだった。
『東京都在住の小林銀河くん(6) 大人試験合格
今夜は家族でワインを嗜むとのこと』
佐藤はうまい棒の袋を空けた。
半分だけかじった。
スクリーンから目をそらし、両親の待つ実家に向かった。
コーヒーは投げ捨てた。




