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ラティアが山奥に身を隠して、どれほどの月日が流れただろう。
季節がいくつ巡ったのか、もう彼女自身にも分からない。
**《ヘヴンズ・スパイン》**の山腹は、常に雪と風が荒ぶる世界だった。
けれど今、その一角だけが不自然に輝いている。
ラティアを中心におよそ半径一・五キロ。
そこだけは春。
雪は解け、草が芽吹き、季節外れの花まで咲き始めていた。
すべて——ラティアが“魔力を外へ流す”ために作り出した、魔力の避難場所。
「……これで、爆発しない、はず」
かつて制御できず暴れ続けた魔力は、
この“春の結界”を張ることでようやく穏やかになった。
だが、この方法に辿り着くまでは地獄のような日々だった。
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山に逃げてすぐの頃。
ラティアの日常は、常に恐怖と隣り合わせだった。
少し足を滑らせて転んだだけ——
その衝撃で遠くの雪が共鳴し、山肌の雪崩を引きおこした。
風邪で熱が出た夜は——
体温の乱れに魔力が反応し、嵐を呼んでしまった。
寝ている間にくしゃみをすれば——
木々がへし折れ、雷が落ちることさえあった。
「どうして……どうして自分で止められないの……?」
一人、雪の中で泣いた日もある。
涙がこぼれるたび、周囲の空気が震え、危険が拡大していく。
ラティアはその暴走をどうにかするために、
魔力を自分の外へ流し、一定の距離で留める方法を探り、何度も何度も試した。
そして、ようやく——
「……ここだけでいい。
外の世界を壊さないなら……それでいい。」
彼女は半径一・五キロの小さな春を編み出した。




