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レオンを傷つけてしまった日の夜。

ラティアは布団の中で震えながら、ずっと自分の腕を抱きしめていた。


魔力は今も胸の奥で、微かにざわめいている。

まるで、次の暴走の機会を待っているかのように。


「……もう、私には……止められない……」


かすれた声が漏れた。


神官の腕輪ですら壊れてしまった。

自分の意志で、力を抑えられる未来なんて想像できない。


——こんな私がそばにいたら、また誰かを傷つける。

——次は、もっと酷いことになるかもしれない。


その恐怖が、眠気をすっかり奪った。


深夜。

屋敷の灯りがすべて消えた頃、ラティアは静かにベッドを抜け出した。


机の引き出しから小さな荷物を取り出し、

振り返らずに部屋の扉へ向かう。


(ごめんなさい……。お父さま、お母さま、レオン…でも、私は制御できない……もう誰かの隣にいちゃいけない)


雪のように白い夜気が、彼女の決意を冷たく固めた。




翌朝、ラティアがいないと知った家は混乱に包まれた。


両親は領兵と屋敷の騎士に捜索を命じ、

レオンはまだ癒えない傷を抱えながらも、必死に彼女の名を呼んで走り回る。


「ラティア……。あんな終わり方でいなくならないでよ……」


しかし、少女は見つからなかった。


生まれつき“気配を読まれない魔力”を持つ彼女を探すのは、干し草の山から針を探すようなものだった。


――制御できない力が、今は追跡すら拒む殻になっていた。




いくつもの街道を越え、

雪の降り積もる森を抜け、

どれほど歩いたか分からない。


気がつけば、ラティアの前には巨大な白銀の山壁がそびえ立っていた。


世界の屋根ヘヴンズ・スパイン

雲を突き破るその山脈は、誰も近づかぬ禁域と呼ばれている。


「ここなら……誰も……いない……」


立ち止まると、胸の奥の魔力がぶるりと震えた。

それはもはや、生き物のようだった。


「……、抑えられる気がしない……」


次に暴れたとき、自分が何を壊すのか。

誰を傷つけるのか。

考えた瞬間、足がすくんだ。


だからこそ——人のいない場所へ行くしかなかった。


ラティアは凍りついた息を吐き出し、

吹き荒れる風の中へ足を踏み入れる。


「ここで……私、ひとりで……なんとかする」


その声は、雪の上に淡く消えていった。

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