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森を抜けると、視界がひらけた。


木々の向こうに、小さな村が広がっている。


低い柵に囲まれた畑。

煙を上げる石の煙突。

土の道の両側に並ぶ木造の家。


どこからか、パンの焼ける匂いが漂ってきた。


ラティアは思わず立ち止まる。


「……家」


小さく呟く。


結界の中の小屋とは違う。


たくさんある。


人が住んでいる家が。


カイルが横で笑う。


「村だな」


サラが優しく言う。


「ここは山の麓の小さな集落だそうです」


男が振り返る。


「ええ、そうです! ここが僕たちの村です!」


村の入口に近づくと、畑仕事をしていた人たちがこちらに気づいた。


一人が目を丸くする。


「おい……」


別の男が言う。


「勇者様じゃないか?」


ざわざわと人が集まり始める。


ラティアはその様子に少し後ずさる。


(……人、多い)


無意識に、ユリスの隣へ寄る。


ユリスは何も言わない。


ただ、ほんの少し歩く速度を落とした。


それだけで、ラティアは少し落ち着く。


さっき助けた男が叫んだ。


「熊から助けてくれたんだ! この人たちが!」


村人たちがどよめく。


「熊!?」


「また出たのか!」


「大丈夫だったのか!」


男は勢いよくラティアを指さした。


「この方が止めてくれたんです!!」


沈黙。


村人たちの視線が、一斉にラティアへ集まる。


ラティア固まる。


「……え」


次の瞬間。


「聖女様だ!!」


「聖女様だ!」


「すごい!」


「違う」


ラティアが即答する。


カイルが肩を震わせる。


「いや言われるわ」


サラも小さく笑った。


村人の一人が慌てて言う。


「ぜひ村へ! 休んでいってください!」


別の人が言う。


「パンもあります!」


「スープも!」


ラティアは少し困った顔でユリスを見る。


どうしたらいいかわからない。


ユリスは短く言った。


「世話になる」


その一言で決まった。


村人たちは嬉しそうに頷く。


「宿を用意します!」


「広場へどうぞ!」


人に囲まれながら、四人は村の中へ入っていく。


ラティアは歩きながら、きょろきょろと辺りを見る。


畑。


井戸。


干してある洗濯物。


走り回る子供たち。


全部が新しい。


そのとき、小さな子供がラティアの前に来た。


じっと見上げる。


「お姉ちゃん」


ラティアはしゃがむ。


「なに?」


子供は言った。


「熊、ほんとに止めたの?」


ラティアは少し考えてから答えた。


「……撫でただけ」


子供は目を輝かせる。


「すげえ!」


ラティアは少し照れる。


その様子を見て、カイルがぼそっと言う。


「完全に人気者だな」


ユリスは何も言わない。


だが、ラティアを見ていた。


村の広場に着く。


中央には井戸があり、その周りに人が集まっている。


誰かが言った。


「今日はちょうど祭りの日なんだ」


カイルが眉を上げる。


「祭り?」


村人が笑う。


「収穫祭ですよ」


サラが微笑む。


「それは楽しそうですね」


ラティアは広場を見る。


色とりどりの布。

料理を並べる台。

歌う人たち。


胸が少し高鳴る。


(……お祭り)


結界の中にはなかったもの。


ラティアは小さく呟く。


「……すごい」


そのとき。


ユリスが横で言った。


「迷うな」


ラティアが顔を上げる。


「え?」


ユリスは短く言う。


「人が多い」


それだけ。


ラティアは少し笑う。


「うん」


そして、ほんの少しだけ——


ユリスの外套の端を掴んだ。


迷わないように。


胸の奥が、また少しだけざわっとする。


でも。


嫌な感じじゃない。


むしろ——


少しだけ安心する感覚だった。


広場では、祭りの準備が始まっていた。


ラティアの初めての村の夜が、


もうすぐ始まろうとしていた。

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