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結界から少し離れた森の道。


朝の光が木々の隙間から落ちて、地面にまだらな影を作っている。


ラティアは歩くたびに、きょろきょろと辺りを見ていた。


「……木、多い」


カイルが吹き出す。


「そりゃ森だからな」


「結界の中にも森はあるけど……なんか違う」


ラティアは足元の土を見た。


踏むと沈む。


柔らかい。


「……土が、動く」


「動かねえよ」


「でも沈む」


サラがくすりと笑う。


「外の地面はそういうものですよ」


ラティアは小さく感心した顔をする。


世界は、思っていたより細かく違う。


そのときだった。


遠くから、声が聞こえた。


「うおおおおおおい!!」


ばさばさと木の枝をかき分けて、誰かが走ってくる。


若い男だ。


薪を背負っている。


そして、その後ろから——


どすん。


どすん。


大きな影。


「熊だあああああ!!」


カイルが振り向く。


「うわ、でか」


黒い熊が森の奥から突進してくる。


ユリスが剣に手をかける。


だがその前に——


ラティアが一歩出た。


「だめ」


ぽつりと言う。


熊は怒りで唸りながら突っ込んでくる。


男が転ぶ。


距離はもう十歩もない。


ラティアは両手を前に出す。


「落ち着いて」


光が広がる。


ふわりと。


柔らかい光。


熊の動きが止まった。


さっきまでの暴れる気配が、すっと消える。


熊は首をかしげる。


のそのそと近づく。


ラティアの前まで来て——


ぺたり。


座った。


「……え?」


カイルが呆然とする。


サラが小さく息を呑む。


ユリスの目が細くなる。


ラティアは熊の鼻先を撫でる。


「びっくりしたね」


熊はぐるると喉を鳴らす。


完全に懐いた。


沈黙。


男が震えながら言う。


「……え……?」


ラティアは振り返る。


「もう大丈夫だよ」


にこっと笑う。


男は三秒固まり——


地面に土下座した。


「聖女様だああああ!!」


「違う」


ラティアが即答する。


カイルが腹を抱えて笑う。


「いや今のは言われるわ」


男は涙目でまくしたてる。


「熊が!熊が!急に怒って!薪取りに来ただけなのに!」


ユリスが熊を見る。


「普通の熊じゃないな」


よく見ると、熊の体に黒いもやの痕がある。


ほんのわずかだが。


ラティアの背中がぞくっとする。


(……これ)


思い出す。


先週の、黒い魔物。


サラが静かに言う。


「北方の魔力の影響かもしれません」


男が慌てて言った。


「最近、山の方がおかしいんです! 動物が急に暴れたりして……」


カイルが顎をさする。


「なるほどな」


男は恐る恐るラティアを見る。


「本当に……助かりました」


ラティアは慌てて手を振る。


「ちがうちがう!ただ撫でただけ!」


熊は隣で満足そうに座っている。


カイルが肩を叩く。


「お前さ」


にやにや笑う。


「“ただ撫でただけ”で熊止める人間いねえから」


ラティアは顔を真っ赤にする。


男が立ち上がり、森の奥を指した。


「この先に村があります」


息を整えながら言う。


「よかったら寄っていってください。皆もきっと驚きます……いや喜びます!」


カイルが笑う。


「ちょうどいいな」


ユリスを見る。


「補給ついでに情報も聞ける」


サラも頷いた。


「ええ。最近の山の様子も知りたいですね」


ユリスは短く言う。


「案内してくれ」


男は何度も頷いた。


「はい!こっちです!」


男は先に立って歩き出す。


カイルがラティアの横に並ぶ。


「外界初日で熊テイムはすごいな」


「テイムじゃない!」


「どう見てもテイムだろ」


サラがくすくす笑う。


ユリスは何も言わない。


だがラティアを一度だけ見た。


そして前を向く。


森の道の先。


木々の向こうに、煙がうっすらと見えていた。


小さな村だ。


ラティアは胸を押さえる。


(人の……村)


結界の外で。


初めて出会う、人の暮らし。


四人は森の道を進む。


村へと続く小道を。

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