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四人は森の小道を歩いていた。


しばらく進むと、木々の間から淡い光が見えてくる。


ラティアの足が、ふと止まった。


「……あ」


春の結界。


雪山の中にぽつりと広がる、小さな春。


花が揺れ、草が光り、精霊たちがふわふわと漂っている。


ずっと、ここで生きてきた。


ずっと、ここに守られてきた。


ラティアはゆっくり結界へ近づく。


光の膜が、やさしく揺れる。


カイルが後ろで腕を組む。


「寄ってくか?」


ラティアは小さく頷いた。


結界の中へ一歩入る。


春の空気が、ふわりと包む。


精霊たちが一斉に集まってきた。


金色の光の粒――光の精霊リュミ。

髪の間をくるくる飛ぶ小さな風の精霊フィーネ。

水の粒をふわりと浮かべる水の精霊アクア。


そして足元の草が、もこりと動く。


小さな土の精霊グラスが、ゆっくり顔を出した。


ラティアは少し笑う。


「みんな、来てくれたんだ」


そのとき。


花畑の向こうで、草が揺れた。


ゆっくりと、大きな影が現れる。


白い毛並み。


静かな足取り。


雪狼フロスだった。


ラティアの顔がぱっと明るくなる。


「フロス!」


フロスはゆっくり歩いてくる。


相変わらず大きくて、堂々としている。


ラティアの前で止まり、じっと見上げた。


ラティアはしゃがみ込む。


両手でふわふわの首元を抱きしめた。


「……ごめんね」


小さな声。


「ちょっと出かけてくる」


フロスは黙っている。


ただ、大きな頭をラティアの肩に寄せた。


重たい。


でも、あたたかい。


ラティアは少し笑う。


「そんな顔しないで」


フロスの耳が少し下がる。


分かっているのだ。


ラティアがどこかへ行くこと。


しばらく戻らないかもしれないこと。


ラティアはフロスの額を撫でた。


「大丈夫」


優しく言う。


「ちゃんと帰ってくる」


フロスの金色の瞳が、じっとラティアを見つめる。


そしてゆっくりと――


「……ヴゥ」


小さく鳴いた。


それは反対でも、不満でもなく。


どこか、送り出すような声だった。


ラティアは笑った。


「うん」


もう一度撫でる。


「待っててね」


フロスは静かに座り、ラティアを見上げる。


精霊たちの光がふわりと漂う。


ラティアは立ち上がる。


春の庭を見渡す。


小屋。

花畑。

池。


全部。


「……ありがとう」


小さく呟く。


「ここがあったから、わたし生きてこれた」


深呼吸する。


春の匂いを胸いっぱいに吸い込む。


「だから」


精霊たちを見る。


フロスを見る。


「少し、行ってくるね」


静かな声。


「でも——」


結界を見渡す。


「帰ってくる」


その言葉は約束だった。


「ここは、わたしの家だから」


リュミの光がぱっと弾ける。

フィーネがくるくる回る。

アクアが水の粒を弾ませる。

グラスが土をぽこんと盛り上げる。


フロスは静かに尾を振った。


ラティアは結界の外へ歩く。


光の膜が、やさしく揺れる。


振り返る。


春の結界。


フロスが、まだそこにいる。


精霊たちの光が漂っている。


ラティアは小さく呟いた。


「……いってきます」


そして前を向く。


カイルが笑う。


「ちゃんと挨拶できたか?」


ラティアは頷いた。


「うん」


サラが微笑む。


「ここは、あなたの帰る場所ですね」


ユリスは結界を一度だけ見た。


そして言う。


「……行くぞ」


短い言葉。


だが、不思議と背中を押す声だった。


ラティアは前を向く。


王都へ続く道を、四人で歩き出した。


雪山の風が静かに吹き抜ける。


森を少し進んだところで、ラティアはふと振り返った。


木々の向こうに、春の結界が淡く光っている。


その瞬間。


春の結界が、ふわりと光を揺らした。


花が風のように揺れ、精霊たちの光が結界の縁を巡る。


それに応えるように——


フロスが空を見上げた。


「――――――オォォォン」


長く、澄んだ遠吠えが響いた。


雪山へ。

森へ。

空へ。


声は遠くまで広がっていく。


まるで、ラティアの旅立ちを告げる声のようだった。


ラティアは立ち止まり、目を閉じた。


その声を、胸いっぱいに受け止める。


そして小さく笑った。


「……うん」


聞こえたよ、とでも言うように。


もう一度、結界を見る。


フロスはまだそこにいる。


春は、変わらずそこにある。


帰る場所。


ラティアは前を向く。


ユリスたちは、少し先で待っていた。


カイルが肩越しに振り返る。


「おーい」


笑いながら言う。


「置いてくぞ」


ラティアは小さく走って追いついた。


サラが優しく微笑む。


ユリスは何も言わない。


だが歩く速度を、ほんの少しだけ緩めた。


ラティアはもう一度だけ振り返る。


遠くで、春の結界が淡く輝いている。


フロスの姿は、もう小さくなっていた。


ラティアは静かに呟く。


「……いってきます」


その声は風に乗り、

春の庭へと帰っていった。


そして四人は歩き続ける。


王都へ続く道を。


ラティアの世界は、

いま、少しずつ広がっていく。


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