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ひかりの庭で
ラティアがまだ四歳、レオンが五歳の頃。
バレンシア伯爵家とアルセイン家は隣接する領地だったため、
二人はよく屋敷の庭越しに顔を合わせて遊んでいた。
その日も、春の柔らかな風が庭を渡り、
花壇の花びらがひらひらと揺れていた。
「ラティア、こっち来て!
ほら、今日も花のトンネル、作っておいた!」
レオンが自慢げに胸を張る。
枝をぐるりと編んで小さな子どもが通れるアーチを作っただけなのに、
当時のラティアにはそれがすごく立派な“秘密基地”に見えた。
「わぁ……すてき……!」
ラティアが駆け寄ると、レオンは満足げに笑った。
ラティアはおとなしくて、他の子と馴染むのが苦手だった。
けれどレオンだけは、最初からなぜか自然にそばにいてくれた。
アーチをくぐるとき、ラティアの髪飾りが枝に引っかかった。
「……っ」
ぴたりとラティアが固まる。
少し力を入れれば外れるのに、怖くて動けなくなってしまう。
そんな性格だとレオンはもう知っていた。
「ラティア、動かないで。僕がとるから」
そう言って、幼い手でそっと枝を押し広げてくれる。
小さな指が丁寧に弾かれて、髪飾りを傷つけないように。
「……ありがとう」
「いいよ! ラティアのだから壊したら大変だし」
レオンの無邪気な笑顔に、ラティアは胸が温かくなった。
──その時だった。
ひらり。
ラティアの周りを、ひとすじの光が舞った。
淡い金色の、小さなひかり。
まるで羽虫のようにラティアの肩のあたりを回って、ふっと消える。
「……え?」
ラティアが目を瞬かせる。
レオンはと言えば、驚きで口を開けたままラティアを見ていた。
「い、今の見た!? ラティアから出たの?」
「わかんない……なにか、あったの?」
「なんか……光ってた。きれいだった」
レオンは怖がるどころか、むしろ楽しそうに笑った。
「すごいよラティア!
なんか、光の精霊みたいだった!」
「……こわくないの?」
ラティアが不安そうに問うと、レオンは迷いなく首を振った。
「こわいわけないよ。
ラティアの光なら、きれいだよ」
その言葉に、ラティアは胸の奥がぽっと温かくなった。
その日から光が現れることはなかったが、
レオンはたまにからかうように言う。
「またあれ見たいなー。ラティアの“きらきら”」
「……やめてよ、はずかしい」
そんな会話を何度もした。
それはただの子どもの遊びの記憶。
けれど——
ラティアが“異常な魔力を持つ子”だった最初の兆しを、レオンだけが見ていた。
そして彼は、その正体も知らぬまま、
ラティアの光をずっと“きれいだ”と言い続けた。




