14
朝。
鳥の声で目が覚めた。
ラティアはゆっくりと目を開ける。
いつもの天井。
いつもの匂い。
——そして。
(……あ)
思い出す。
勇者。
魔王。
聖女のお告げ。
昨夜の会話。
一瞬で意識が覚醒した。
(魔王疑惑……)
毛布の中で固まる。
精霊たちが、心配そうに周囲を漂っていた。
外から話し声が聞こえる。
カイルの笑い声。
サラの穏やかな返事。
そして——低く落ち着いた声。
ユリス。
(……いる)
逃げたい気持ちが、ほんの少しだけ浮かぶ。
けれど。
昨日。
マントを掛けてくれたこと。
斬らなかったこと。
「真実を見に来た」と言った声。
胸の奥が小さく揺れた。
ラティアは毛布をぎゅっと握る。
(……逃げたら、だめな気がする)
ゆっくり起き上がる。
深呼吸。
もう一度。
深呼吸。
そして、小さく頷いた。
外へ出る。
朝の光が森を満たしていた。
夜の緊張が嘘のように、柔らかい空気。
ユリスが焚き火跡のそばで剣を手入れしている。
カイルは朝食の準備中。
サラは祈りを終えたところだった。
三人の視線が一斉に向く。
ラティアの足が一瞬止まる。
(帰りたい)
でも。
止まらない。
一歩。
また一歩。
そして。
小さく声を出した。
「……おはよう」
ほんの少し震えていた。
だが、自分から向けた言葉だった。
カイルがすぐ笑う。
「お、起きたか」
サラが柔らかく微笑む。
「よく眠れました?」
ラティアはこくんと頷く。
そして視線が、自然とユリスへ向く。
彼は一瞬、手を止めた。
鋭い目が少女を見つめる。
まるで何かを測るように。
やがて短く答えた。
「……ああ。おはよう」
それだけ。
それだけなのに。
なぜか胸が少し軽くなる。
沈黙が落ちる。
ラティアは少し迷い——
ユリスの隣に、そっと座った。
昨日なら、絶対にできなかった距離。
精霊たちが嬉しそうに光を弾ませる。
その瞬間。
ユリスの視線がわずかに動いた。
空気の揺れ。
光。
普通の人間なら気づかないほどの微かな魔力。
だが、彼は勇者だ。
気づかないはずがない。
(……やはり。
普通の魔力ではない。
だが——
魔王のそれとも、違う。)
けれど。何も言わない。
追い払わない。
それだけで十分だった。
しばらくして、ラティアが小さく言う。
「……あの」
勇気を集める。
「今日……どこ行くの?」
ユリスは答える。
「北の調査を続ける」
少し間を置いて。
「……君はどうする」
ラティアは少し考える。
関わらない方がいい。
きっと、その方が安全。
少し、外の世界には興味がある。
けれど、自分がそこに触れるのは怖い。
「私はここにいる。」
「わかった。少しの間ここを拠点にしてもいいか?」
ラティアの表情が、わずかに明るくなる。
まだ、行かないんだ。
「うん!いいよ。」
その瞬間。
精霊たちが一斉に光を弾けさせた。
朝日が森を照らす。
勇者一行の旅に、
そっと寄り添うように——




