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暖炉の焚き火の音だけが、四人をつないでいた。


ぱち、と薪が弾ける。


室内は深く静まり返り、遠くで鳥が鳴いている。


ラティアはマントに包まれたまま、火の向こう側に座っていた。

借りた布の衣はまだ少し大きく、袖が指先を隠している。


視線を上げるたび、ユリスと目が合いそうになって——すぐ逸らした。


思い出してしまう。


さっきまでの自分の姿を。


耳まで熱くなる。


「……その、ありがとう……」


小さな声。


ユリスは火に薪をくべながら答えた。


「礼を言われることはしていない」


ぶっきらぼうな言葉だったが、声は戦場よりずっと柔らかい。


沈黙が落ちる。


その空気を和らげたのは——


「ユリス様、もう少し言い方というものがありますよ」


くすり、と笑う声。


僧侶のサラだった。


白い法衣の袖を整えながら、彼女はラティアの隣に腰を下ろす。


焚き火の音が、静かな夜を満たしていた。


ぱち、と薪が弾ける。


その流れの中で、ラティアはそわそわと袖を握りしめていた。

人の気配も声も、あたたかい輪も——

こんなに近いのは、本当に久しぶりだった。


ふとサラが「なにか温かいものを準備しましょうか?」と言うと、

ラティアは小さく「あ……わ、わたし……やる……」と立ち上がった。


袖が指先を隠したまま、木のトレイへ向かう。


三人がわずかに視線を向けた。


ラティアはカップをそっと取る。

両手で包むように。


人の目があるだけで、指先の魔力がざわつく。

心臓が跳ねて、ほんの少し手が強張る。


(だいじょうぶ、大丈夫……いつも通り……)


湯を注ぐ。


——ぱきん。


小さな音。


「あっ……!」


カップの縁に亀裂。

魔力が反応する。


ひびが一瞬で広がり、粉々に砕け散る。


ラティアの肩が大きく揺れた。


「ご、ごめんなさい……!」


慌てて伸ばした指先から、淡い光がにじむ。

砕けた欠片が空中で止まり、

ゆっくりと吸い寄せられるように戻っていく。


——この動きだけは、もう体が覚えてしまっていた。


数秒後、元通り。


カイルが目を丸くする。


「……今の、修復?」


サラも感嘆の声を漏らす。


「高度すぎます……」


ラティアはうつむいたまま、小さく言った。


「……山で暮らすと……

いろんなもの、よく壊しちゃって……。

風でも、水でも……手が当たるだけで……

だから……直せないと、困るから……」


まるで、ほんとうに「当たり前の家事です」というような声音。


再び湯を注ぐ。


息を止める。


——ぱき。


またひび。


また砕ける。


また光。


また修復。


三度目。


四度目。


ラティアの手は徐々に震えていき、胸元まで強張っていた。


(……見られてる……こわい……

ひとりなら、もっと上手にできるのに……)


壊す。

直す。

壊す。

直す。


“日常の癖”ではあるけれど、

“人に見られる”のは、とても恥ずかしくて心細かった。


そして——五度目。


湯が静かに満ち、カップは割れなかった。


ラティアはしばらく動けず、

ひびがないか何度も確かめて、ようやく息を吐く。


両手でそっと抱え、慎重に運ぶ。

歩幅が普段よりずっと小さい。


「……どうぞ」


カイルが受け取り、少しだけ真顔で言う。


「……ありがとな。

すげぇよ、本当に」


ラティアは胸の前でそっと指を握りしめ、小さく頷いた。


その横顔には、


その表情には、戦いの時にはなかった——

ほんの少しの誇らしさがあった。


焚き火越しにそれを見ていたユリスは、静かに目を伏せた。


(……あれが“生きるための技”か)


壊す力ではない。


——直しながら、誰も傷つけずに過ごすための力。


その意味が、ようやく胸に落ちた。


胸に残る違和感。


——この少女を、敵として扱うことはもう出来ない。


ユリスは、そう思ってしまった。


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