灯石
ゼルが何を気にしてるのか、リフにはなんとなく分かっていた。
さっきの手。触れた場所。
視線が、ほんの少しだけ左肩に落ちたのも見えていた。
言えない。
言ってしまったら、きっと今みたいには並んで歩けなくなる。
左肩の烙印を見られたら、もう一緒にはいられなくなる気がしていた。
「……ゼル」
「ん?」
歩きながら、リフはゼルの手をちらっと見る。
「ゼルの手、好きだよ」
ゼルが足を止めかける。
「急にどうした」
「ぬくいし」
リフはそれだけ言って、少し笑った。
「落ち着く」
「お前の体温が低すぎるだけだろ」
「そうかも」
リフは唇を噛み、指先を握りしめた。
言わないままでいられる距離が、今はちょうどよかった。
「そういえば」
歩きながら、リフは鞄を探る。
「ノタルがくれた灯石、これ擦るとあたたかくなるって」
ポケットから、手のひらサイズの丸い石を取り出す。
両手で軽く擦ると、ぽわっと石の中に橙色の光が灯った。
「ほら」
「光ってるな」
「あったかいよ」
リフは少し嬉しそうに手のひらを開く。
「ゼルも、やってみる?」
「こうか」
ゼルは受け取ると、思ったより強く擦った。
「……っ」
「え?」
「熱っ」
「え、ちょっと!」
リフが慌ててゼルの手を掴む。
「大丈夫? 火傷した?」
指を開かせて、赤くなった部分を覗き込む。
「痛い?」
見上げてくる顔は、眉を寄せて、こちらを気遣う色に満ちていた。
「……」
ゼルはそのまま、静かに腕を回した。
「え?」
リフの声が小さく跳ねる。
「なに?」
返事はない。
ただ、抱きしめる力が少しだけ強くなる。
胸に顔が当たり、灯石の光が二人の間で揺れた。
リフは一瞬だけ戸惑って、それから小さく息を吐く。
「まぁ、いいか」
灯石も、ゼルも、あったかい。
リフはそのまま、身を預けた。




