コートのシミ
リフはベンチに腰を下ろし、包みを開いた。
中に入っていたのは、ナトカがくれたコアレット。
「今日の分」
そう言って、ひと口かじる。
甘い。
リフの口元が、わずかに緩んだ。
「おいしい」
小さく言って、もう一口。
「いつものと違うのか」
「甘いんだ」
「へぇ」
ゼルはそう言って、串に刺した肉をかじった。
次の瞬間。
「あ」
「あ」
声が重なった。
ゼルの手元から、跳ねた肉汁が飛ぶ。
白いボアのコートに、小さな染みがついた。
リフは胸元を見て、一瞬だけ目を瞬かせる。
「悪ぃ」
ゼルはすぐに串を置いた。
水筒を掴み、布を取り出す。
「動くな」
「ゼル、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない」
そう言って、水を含ませた布で、トントンと叩く。
何度も、慎重に。
「そんなに必死にならなくても」
「白いから目立つだろ」
「目立つけどさ」
リフは少し笑って、コアレットをもう一口かじる。
「この先、どうせ汚れるよ」
ゼルの手が止まる。
「ナトカも、たぶんそっちの方が喜ぶよ」
「大事なんだろ」
ゼルは最後に一度だけ、軽く叩いてから布を畳んだ。
「もう肉はやめる」
「え」
「また汚す」
リフは顔を上げて、ゼルを見る。
「なんで」
「お前のコートに匂いもつくし」
「俺は、ゼルが我慢する方が嫌だな」
ゼルの動きが止まる。
「肉、好きでしょ」
「……まあな」
「じゃあ、食べて」
リフはコアレットをかじりながら言う。
「汚れたら、その時はその時」
ゼルはしばらく考えてから、串を持ち直した。
「……次は、気をつける」
「うん」
リフは嬉しそうに頷いて、また甘いコアレットを食べた。
ベンチの上で、甘い匂いと焼いた肉の匂いが、少しだけ混ざっていた。




