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ナトカのコートと雨

 森の道は、朝の湿気がまだ残っていた。

 歩くたび、リフのコートのもこもこが揺れる。

「ねえ、ゼル」

「なんだ」

「これ、ほんとにすごい」

 リフはコートの胸元をつまんで、ぎゅっと握る。

「ふわふわだし、軽いし、あったかい」

「知ってる。さっきから何回目だ」

「ナトカってすごいよね」

 その名前が出た瞬間、ゼルの足がわずかに止まった。

 止まったまま、空を見上げる。

 雲が厚くなってきている。

「雨、来そうだな」

「あ!降ってきた」

 リフは反射的にコートの前を押さえた。

「濡れる……」

 ゼルは何も言わず、進路を変える。

「こっち来い」

 大きな木の下まで歩くと、立ち止まった。

 リフを引き寄せるようにして、そのまま腕を回す。

「え」

 次の瞬間、頭上で影が広がった。

 皮膜の翼が、静かに開く。

「濡れたくないんだろ」

 リフを引き寄せるようにして、そのまま胸の中に引き寄せる。

「ゼル、あったかいね」

 胸元から伝わる体温に、ほっと息が漏れる。

「お前が冷えてるだけだ」

「そうかな」

 リフは小さく笑って、翼の内側で丸くなる。

「コート、濡れなくてよかった」

「大事なんだろ」

「うん。すごく」

 ゼルは翼の角度を少しだけ調整する。

 雨が止むまで、二人はそのまま立っていた。

「ありがとう、ゼル」

 木の下で、ふわふわと、あたたかいまま。


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