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知らないはずの、知っている場所
放課後の校舎裏に行くと、
私はいつも、理由もなく息が詰まる。
ここで――何かを、断った気がしていた。
◆
嫌な思い出があるわけじゃない。
誰かに傷つけられた記憶もない。
それなのに、足が重い。
夕方の光。
コンクリートの匂い。
遠くで鳴く蝉。
その全部が、胸の奥をざわつかせる。
◆
その日も、たまたま通りかかっただけだった。
友達に呼ばれて、
近道だからと理由をつけて。
でも、校舎裏に差しかかった瞬間――
言われた。
気が、した。
「好きだ」
誰に?
誰から?
分からない。
分からないのに、
胸が一度、強く痛んだ。
◆
私は首を振る。
そんなはず、ない。
考えすぎだ。
そう言い聞かせて、その場を離れた。
背中に、
見えない視線が残っている気がしたけれど。
振り返らなかった。
◆
その言葉を、
私はまだ、思い出していない。




