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第一章 会合

このお話には天使が登場します。

天使の設定として、寿命が一週間以内の者にしか見えない。寿命を捧げると願いが叶う。があります。


暗い、暗い廊下を歩く。

コツン コツン

靴底が石畳を叩く音だけが反響する。目の前に広がる闇へ向かって、歩を続ける。背後から微かに漂う蝋燭の光が徐々に遠ざかり、足元さえ闇に溶けていく。

コツン コツン

靴音だけが反響する。

闇はますます濃くなり、目を開けている意味さえ分からなくなる。一歩、二歩と歩くうち、闇が、肺に忍び込む。息をするたびに黒い粒子が体内を侵していく気がした。

闇を見つめる眼球が、唯一の感覚器官だ。

コツン コツン

その単調なリズムに支配される。歩幅も速度も決まっていて変化しない。まるで見えない糸に吊られた操り人形のように、足は自動的に前進を続ける。冷えた空気を切り裂く靴音だけが、自分の存在証明になっている。

コツン コツン

足音だけが支配する空間の中で、自分という存在が剥離していく。背骨の隙間を冷たい風が通り抜け、思考が少しずつ、浮かんでは、消える。黒雲渦巻く深淵に近づくにつれ、心が無に奪われるのを感じる。それでも、なお、歩き続ける。

コツン

闇が、空間を支配する。



やがて、両脇に紫色光る闇の炎、揺らめく蠟燭が通路を照らすのが見えてくる。何重にも施された鎖と血のように紅い魔法陣。それらがこの薄気味悪い通路を彩っている。同時に、暗闇の最果てを示す大扉から漏れる闇が、通路の終点を示し心に色を宿らせる。

コツン

一瞬の間、気がつくと大扉は眼前の前に立ち塞がる。

ボクは、黒く濁った空気をめいっぱい吸い込み、そして、穢れなき純気にして吐き出した。

ギイィ…

それは重厚感ある低音を響かせ、これでもかと重く少しずつ開いていく。隙間からはより濃密で純粋な闇が流れ出てくる。その闇はまるで生き物のように蠢きながらこちらに手を伸ばしてくるように感じ、その圧倒的な威厳に体が引き寄せられる。

呪われた誘いに身をゆだね、扉の向こうへと一歩を踏み出す。


そこは、王室、玉座の魔。左右には魔の象徴を示す、羽を捥がれた天使の石像が直立している。そして、中央には凄まじいオーラを放つ、どす黒い物体がいる。漆黒のローブを纏ったそれは、周囲に散乱する骨の山が禍々しさを強調する。闇よりも深く濃い漆黒の塊は徐々にその姿を顕にしていく。暗黒そのものを体現したような巨大な影はゆっくりと顔を上げ、趣味の悪い髑髏を模した仮面の奥から淡い黄金色の瞳を鋭く光らせ、こちらに声を震わせた。

「何者だ。」

その声は空間全体に染み渡り、聞いているだけで胸の内に潜む恐怖心を刺激される。しかし、その声音はどこか威厳を含んでおり、圧倒的なまでの力を感じさせる。目の前のこの存在が、まさに全ての魔を統べる存在であることを改めて実感させられる。

ボクは自身のヤクワリを認識し、目の前の闇に返答を返す。

「ボクは天使。お前の命を奪う者。」

巨悪は大きくため息をつき、項垂れる。そして、深い低音を響かせる。

「…私は魔王、ヤマターケル=ヤンヴァルド卿だ。」

魔王を名乗るその男は続けて語る。

「天使の存在は知っている。その姿が見えた者は七日を待たずに死亡する。…そんな伝承、戯言の域を出ないものだと思っていたのだがな。」

「そうか。」

魔物の言葉に耳を貸す道理はない。ボクはただ使命を全うするのみ。

次の言葉を待たず、槍の切っ先を巨悪へ向け、口上を述べる。

「お前の命運は尽きた。今こそ報いの時。」

ボクは無駄な言葉を交わさぬよう、素早く振りかぶる。闇を裂く白銀の刃が閃光を描き、漆黒のローブごと身体を断ち切らんとする。

――ザシュッ!

矛が、何かに弾かれた。

見ると、大気中に黒い球体が浮かび、それが切っ先を魔王にすんでのところで阻んでいた。

ボクは冷静に現実を受け止め、次の一撃を繰り出す。しかし、何度斬りつけても同じだった。魔王の周りには、まるで時間が止まったかのような静寂と、光を寄せ付けない絶対的な拒絶がある。

魔王が片手を上げる。反撃に備え、すぐさまボクは後ろに飛びのき、距離を取る。

「まあ、待て。天使の伝承はこうも言っている。…“天使の姿を可視できるものは寿命を差し出すことで願いを叶えることができる”と。」

「…それが事実だとして、ボクがお前の願いを叶えると?」

魔王は一瞬、悲哀の色をその目に宿したが、すぐに後を続ける。

「…三日後に星夜祭がある。七年周期でこの地に飛来するという光の流星。その日は丁度、この魔国が建国八千年を迎える記念すべき一日なのだ。」

「だから?」

「…お前は私が死んだら、この国の人々を一人残らず殺し回る気だろう。」

魔王の存在は障害だ。奴自身が討伐対象というのもあるが、魔族を根絶やしにする上で必ず立ち塞がるだろう。

「私の寿命を三日やる。だから、その日まで私を殺すのを待ってくれ。」

「……」

沈黙。

魔王の目線には未だ、死に対する恐れはなく、ひたすらに諦観した顔をしている。一体、この男は何を思っているのか。何を求めてこんな取引を持ち掛けて来たのか。……いや、考える必要は無い。

ボクは、ヤクワリを、全うする。それが、彼らの、願いの、はずだ。

「魔物がどんなに詭弁に語ろうと、所詮魔物。戯言に過ぎない。お前の言葉に耳を貸し、延命させる義理はない。」

矛の柄を強く握り締める。目の前の悪を速やかに処理する。それが、ボクの使命であり存在意義。

「…お前は天使だろう?天使として、願いを叶える役割を放棄するのか?」


確かに、そうだ。ボクは、天使。ボクらを見えるものの、願いを叶えるのが、存在意義。

ボクは、失念していた。目の前の彼が願いを求めるのなら、それに応えるのがボクらのヤクワリだ。

ボクは首元のペンダントを開き、魔王に向ける。

「これは願いの器。これに叶えたい願いと捧げる寿命を言え。代償が釣り合っていれば願いは叶う。」

願いを告げようとする魔王にボクは続ける。

「お前の寿命が幾ら残っているかは知らないが、一度願いのために寿命を捧げた者は期日を迎えた刻必ず心の臓が鼓動を止め、死亡する。その運命からは逃れられない。それでも僅かな延命のため寿命を捧げるというなら、勝手にしろ。」

しかし、ボクの忠告が聞こえていないのか、魔王はすぐさま願いを口にした。

「ありがとう。…私の寿命を三日やる。だから、天使が私を殺すのを三日後まで待ってくれ。」

ペンダントは魔王の願いを聞き入れると、眩い光を放ち、闇を照らす。それは、魔王の願いが叶ったことを示していた。

一方ボクは、魔王の行動の意味を理解できずにいた。

何故自分の命を削ってまで、死を先送りにしたのか。奴がボクを殺せば、寿命に捕らわれずに済むというのに。

『これは儂達全人類の悲願なのじゃ…どうか、儂の命と引き換えに、悪しき魔王を滅ぼしてくれ…』

そう願いを呟き、命を落とした人間の国王の姿が頭をよぎる。

―そうだ、神様の使命通り、こいつは放っておけない。ボクの手で、殺さなきゃ、ダメだ。それがボクのヤクワリであり、存在意義なのだから。

「お前をこの三日間、殺すことができなくなった。その代わり、ボクが監視につく。三日間、自由になれる日はないと思え。」

ボクはそう言って、魔王に背を向け、翼を広げる。

「一度天界に報告しに戻る。それまで何もするな。」

ボクは魔王に警告し、飛び立とうとする。がー

「待て。帰る前に、君の名前を聞かせてくれないか?」

「…なんでお前なんかに、名乗る必要がある。」

「これから三日、君は私を付きっきりで監視するのだろう。ならば、互いに呼び名があったほうが便利じゃないかい?」

「魔族なんかとなれ合うつもりはない。」

「そうかい?私は君のことをもっと知りたいな。」

…これ以上否定しても何度も聞いてくるだろうと悟り、ボクは振り返り【16】と番号が刻まれた舌を出す。

「…イロだ。これで満足か?」

「ああ。これからよろしくな、イロ。」

魔王は最初の威圧感とは打って変わって優しい声でそう言った。

ボクは魔王の態度に調子を狂わされながらも、くるりと振り向き飛び立った。


これは、ボクと彼のどちらか一人しか生き残ることのできない。そんなお話。

完結できるよう頑張ります

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