柔軟性 2
ヨミの妙に哲学めいて…そして謎に満ちた問答を聞いて…
お爺やんが、俺の横で、ブツブツ言いながら唸っていた。
俺は知っている。
あれは…危険が危ないヤツだ…
あれは、絶対開けてはいけない扉のヤツなんだ…
話を戻そう。
つまり?
俺は、ここでは絶対死なないのか?
ヨミは笑顔で、じゃあ、もう一回殺してみようか?
とか、軽〜く言いやがる…
おいおい?
死なない保証は有るんだろうな…保証は、えぇ?
「残念ながら無いね。だってそもそも、この世界始まって以来の事態なんだよ?
数万年来、そんな前例が無いんだよ?」
「で?…テメエ?それでよく簡単に、俺に殺すとか言ってんよな?おい、やんのかーテメ?」
長らく唸っていたお爺やんが、急に立ち上がって、俺に向かって言った。
「おお、神よどうか、そのお怒りをお鎮め下さい。そしてこの私めの愚考に、発言の御許可を賜りたいと…」
「え?お、おう…」
まず【深淵】について、実のところ誰にも、何も解っていないのです。
人間はもとより、神でさえも、【深淵】には立ち入れないのですから…
ヨミ殿の言った、死んでも無いし生きても無い…、それは深く同意せざるを得ないのです。
これは…あくまでも私個人の勝手な考えなのですが…
なにせ…神々が多くて…その、説明の為、どうかお名前を呼ぶ不敬をお許し下さい…
「お、おう」
神様…いや柴様がこちらに来られた際の、その一緒だった老女の遺体は…その…どうなったのでしょうか?
アマジャにも、当時の詳細を確認しましたが、
柴様の他には、誰も居なかったと申しております。
ヒルメの【呪】は、あくまでもその老女のみを、こちら世界に招き入れる為の物…しかし、
実際にこちらにこの世界に顕現されたのは、柴様がお一人でした…
では、その老女は、【深淵】を超えられてないのでは無くて、
【深淵】で、魂として、分解されたのでは無いかと考えられるのでは…
かつてお聞きした、カエルが光の粒になって消滅したと言う実験、あれです…
想定していなかった条件が重なって、
しかも… 理 の外の存在、柴様が巻き込まれた故に、その老女に有った、ヒルメが欲しがる程の大魔力は、
実は…柴様に全て統合されたのでは無いでしょうか?
「ほお…それから?」
つまり、今の、我等の御前のシヴァ様は、
死んでいた老女の魔力と、生きている柴様が重なっている状態…
故に、二面性を持っているのでは無いかと。
「ん?…お…?全くイミフ…」
そして、【深淵の破壊神】様が、何故居ないのか?
何らかの理由で、
例えば消滅する、或いはしそうな【深淵の破壊神】様が、
その代わりの存在を作るために、
ヒルメの【呪】を無理矢理捻じ曲げ、奪い取って、柴様をこちらに呼び込んだのでは…そう、愚考致しました。
「そうだね、老師の考察は素晴らしいよ、ついでに我も意見、言っても?…」
「おう…」
君の前任者が消えた原因は、正直判ないけれど、
もしかして…あの黒い石が消えたせいも有るのならば…
我にも、ちょっと…原因の一部が有ったのかも知れないな〜って、
いや、だって…ベチン!
あ、痛い…ちょっと待って、怒らないで?
あ、また、ベチンって、痛いよ、そんなに肩ばっかり強く叩かないでよ…
だって、かつては敵対してたんだから、それは仕方が無いでしょ?
今は、はい、凄く凄く反省してますよ、
してますから、ね、もう叩かないで、お願い…結構痛いからそれ…
良いかい?いや、宜しいですか?
でね、そう…、
魔力ってさ、それぞれ形、波長が有るんだよ。
そして…それを受ける側の、つまり持ってる器の形が一致してないと、
その魔力は器に入らなかったり、溢れたりして、殆ど受け取れないんだよ。
ヒルメの形は、君とは全くの正反対…光属性なんだ。
つまり、もし君が吸収したので有るのならば、
まさしく、魔力の形が何者かによって…いや、
【深淵の主】によって、
深淵属性の、君に合うように描き変えられた…と、我もそう思うな。
我は深淵を宵闇には出来なかったけれど、深淵の主には、その不可能なそれさえも出来たのだ…
で、結局…
まず、パイセンが消えた理由は今持って一切不明。
次に、それで恐らく俺が…代理、もしくは二代目に選ばれた可能性が大…ぽいのか?
つまり、判ったの、
たったこれだけか?
いや…あとさ、君が頭で思い浮かべる事が、【深淵】と世界の境界線…このヒビ割れに作用するじゃない?
これ…確かにヒビ割れなんだけどさ…
君が、これをヒビ割れだって、そう思ってるから、これ…ヒビ割れなんじゃ無いのかな?
「へ?…だって、ヒビ割れじゃん、これ?」
そう、それだよ。さっき我が君に、頭が硬いっ…て、言ったのは。
つまり…これは結局、君が思ってる形が具現化されたもので…
君が考えたり、念じたりすればさ、
そもそもその形なんか、どうとでも出来るんじゃない?
「へ?…マジで?」
ほら、早速やってみなよ?
「へ?…どうやって?」
いや…君さあ、少しは自分でかん…いやまあ…良いや。
じゃあ、取り敢えず、ここ、ヒビ割れじゃあ無くて、例えば扉とかを想像してご覧よ?
「へ?ああ…判った、やってみる…」
うえええええ!?
で、でけた…んだが…扉?
ほら、やっぱりね。じゃあ、丸い…そう洞窟の入り口みたいな形とか…
「へ?…えーっと…こう、かな?」
うぇえええええええいっ?!出来た…凄えな…なんこれ???
異世界生活、恐らく一ヶ月…
も、掛かって?…
ようやく…その使い方の片鱗が見えて…きた?
ちな?…ヨミって、意外と有能なヤッホー知恵袋?
いや、参謀…なのでは?
もうちょっとだけ…
優しくしてやろうかな…とか、ちょっと思った。知らんけど…




