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ヨミの都合 3

 一番恐れていた事態が来てしまった。


 我の前に立ちはだかったのは、下の神、サノーだった。


 歩けば大地震を引き起こし、暴れる様は荒れ狂う暴風雨の如し…そんな災害の化身が、我の前に現れ、そして言った。


 「我が兄ヨミよ…、天の命に従い、お命頂戴致します、ご覚悟を…」


 サノーは大昔の戦争の最中、我を忘れ暴れに暴れて、

 意味も無く、国を幾つか滅ぼしてしまった事が有った。

 当時、激情に駆られてたとは言え、それはまさに、予想外の惨劇であった。

 しかし、責められない。

 暴れ出したら止まらない、サノーと言う存在そのものが、元々そういうものであったのだから。




 その後、ヒルメによって縛の【呪】が、身体に刻まれた。


 ヒルメの【呪】が刻まれたサノーは、絶対にヒルメには逆らう事が出来なかった。

 あの時に、まさかこうなるとは思わなかったが、

 かつて我が弟が、例え、その罪を償う為とはいえ、その身に【呪】を刻まれるなど、余りにも哀れだと、我は密かに【呪】から弟を解き放つ方法を探り、

 サノーの小さな分体を作った。


 そして更に、サノーに刻まれたの【呪】の横に、我がもう一つの【呪】を刻んだ。



 分体には【呪】の効果は作用しない。

 いつか何処かで、本体と分体を上手く入れ替えれば、


 その時、【呪】に縛られる事からは完全に解放されると、

 そう、サノーに伝えた。

 サノーは、一言、感謝しますと、我に言った。


 そう、それはサノーの為だったが、

 まさか…今、我の為にそれを使う羽目になろうとは…


 「サノーよ、あの日の事を覚えていますか?」


 「勿論です。ですが、この手で兄様を手に掛けるなど…我にこの様な仕打ちをさせる等…天は非情なり…」


 「良いですか、貴方は悪くないのです…決して気に病んではいけませんよ。そして…あの日の約束をわ…」「御免…どうかお許しを」



 ぐ…っ……


 サノーの矛が、我の身体に突き刺さった。サノーは泣いていたが、自身ではどうする事も出来ないのだ。


 サノーは我の身体をバラバラにし、その一部を除き、


 ヒルメの命に従い、全て魔法で焼き払った。


 そして、その一部は確認の為で有り、

 我の再生を、その手の内に入れる為の、まさしく文字通りの手土産だった。


 サノーは手土産を持ち帰り、

 「我に下された命は、確かに果たされた」と、ヒルメに報告した。


 その後ヒルメの元を後にして間もなく、

 我の刻んだ【呪】が発動した。


 サノーに刻んだ【呪】には、

 我とサノーが、強く分体との入れ替えを望んだ時、

 或いは、その後の然るべき時に、

 その身体が全て朽ち果て、

 その魂が、速やかに分体に移行するように、と。



 サノーの身体は発動した我の【呪】によって、ヒルメの刻んだ【呪】ごと、全てその場で腐り落ちた。


 密かに残しておいた、ヒルメの知らない分体を除いて。



 分体は、ズク族の長によって、密かに地下都市の中の、絶対に見つけようも無い場所に、ひっそりと隠されていた。


 目を覚まし、ゆっくりと復活するサノーに、

 事の次第と真実を告げる為の、我の魔法による伝言を残しておいた。


 そして、サノーは密かに、ズク族を従える立場に着くだろう。


 勿論、ヒルメはそれを知る由もない。



 サノーが死んだのは、我と差し違えた為だと、


 こちらの目論見通り、ヒルメはそう、勝手に思い違いをしていた。



 

 しかし、復活した我は、執拗にヒルメの手の者によって追い回された。


 サノーには、見向きもせずに。




 全部で十一造った分体も、残りは後四つだけ…。


 我の本体を、その内の一つに入れ替え、


 敢えて巧妙に、とにかく逃げ回るだけの分体を一つ、


 我と基本を同じくし、何とか深淵に近づき、可能であればその力を奪う分体レホー



 独自に隠れ生き、可能な限り逃げるが、


 最悪の場合、ヒルメに謝罪し、再び側近に戻る道を模索する分体、

 但し、その最後の意思決定だけは、本体、つまり我が行う。


 今現在、無事に生存している分体は残り三つ。最悪の最悪を考え、あと一つは絶対に安全な場所へ、たった今封印した。


 

 如何せん、我の分体は無駄に、知能が高過ぎる様だ。

 いや、どうも余計に事を考え過ぎるのだろうか…


 まさか、一番可能性の低い筈の分体が【深淵】を直接狙わせるとは…


 流石に、こっちの予測も何も、有ったもんじゃ無い…


 これを機会に、一度全て回収すべきだな。





 しかし…なんだこれは…

 本当に美味いなこれは、ずっと後を引く味だ。


 とても複雑で、全く未体験の味だな、近いものさえ思い浮かばない。


 これが異世界の料理なのか…


 いや…こんな甘露が、まだこの世に有ろうとは、フフ、まさかヒルメでさえも思うまいな、これは愉快だ。



 仲良くなった老師マーヤルと共に、この大きな感謝を【深淵の主】伝えよう。




 そして、【深淵の主】に分体の話を打ち明けて…


 どうせなら、一緒に分体を回収してもらおう。

 これは自分でも、とても良い考えだと思う。



 取り敢えずは、レホーからだ。

 まさか、一番自身の思惑を秘めた分体が、あの行動…


 あの、【深淵の主】を狙ったという、寝ている獣人にも上手く取り入って、

 なんとか【深淵の主】の印象を、どんどん上げなくてはな。




 ああ…忙しい。指示を出し、材料を用意するだけの都市づくりも、それなりの楽しさだったが、



 直接動くと、愉快さが、もはや比較にならんな…

 これで毎日、退屈など無縁だろうな。実に良きだ。



 何より、

 あの力は、ダメだ。

 逆らったところで、何の意味も無い、

 

 全てを消し去る為…


 ただ、その為に有る力なのだ。


 あれは、認めるしか無いのだ。



 少なくとも、

 こちらが歩み寄れば、恐らくやたらと牙を剥くことも無かろう…


 同じ位置に立ち、同じ方向を向いてさえいれば。



 本当、困った事に、

 益々…楽しみだ。


 何も視えないことは不安では無く、


 これから起こる全てが、期待でしか無いのだ。


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