ヨミの都合 2
我は生まれ持って、創造する能力が小さく、弱い。
上の神は、創造する力の、まさに権化で有り、
その能力で、汎ゆる物を作り上げた。
実のところ、我はその能力に強く嫉妬していた。所謂、ないもの強請りだな。
だが、ついぞ自分にその能力は無いのだと、強く割り切った。
それをヒルメが持っていれば、我にそれは必要が無い。我等は三位一体…故に、考え方を変えた。
まずは、地上に動物が順調に増えた。生態系の循環を促す為に、
足りない処を足し、余分な処を引いた。
長い時間の試行錯誤によって、やがて大いなる生命の流れ、命の循環が出来た。
それは一応の完成、言ってみれば、我等神の奇跡の集大成だった。
そこで、この地上に降り立った十六柱のうち、
我等3柱を除く他の御柱が辿ったように、
やがて我等も、この大地に溶け込み、一体と化すのだと思っいた。
だが違った。
理由も定かでは無いが、我等は残った。
そこからは、ただ、長い長い時間だけが流れた。
時折、地震や災害、疫病…大きな問題も起きたが、
それでも、永遠を生きる我等には、ほんの暇つぶし程度で有った。
やがて、退屈という病気が、どうやら我をおかしくした。
かつて捨て去った、あの創造への憧れが再燃した。
無い物を創造する…それを、小さき人間を利用した。無からは創造出来ずとも、
既に有る物を使えば、力無き我でさえ、一応の創造が出来た。
我の能力の一部を、可能な限り与え、
魔力を秘めた新たなる種、魔人種を創った。
それは、実験の意味合いが強かったとは言え、やがて魔人種は、ゆっくりとその数を増やし、
数千年掛け、この世界を構成する種の一つ、魔族として、それなりに繁栄していた。
人間もそうだが、その動きを観ているのは、実に楽しかった。
特に…魔族を応援するのも、我の力を引いているのだから当然、贔屓目も有る。
大きな事態に直面する度に、
魔族は、既に有る物を使い、加工し、変化させ、或いは組み合わせ、遂には小さき創造を成し遂げた。
それは、楽しい以上に何かしら誇らしい様な気持ちだった。
我と同じで力を持たぬ故、多くの知恵を使う。それはまさに、我自身の様だと、そう感じていた。
本来、決して干渉せぬのが暗黙の了解だったが、我は秘密裏に、一部の魔族を使役していた。
そして、創造の一環として、大きく美しい庭を持つ、見事な城を造らせた。
魔族の中に居た、強い拘りを持った者が、感嘆する様な美を創り上げた。
たまたま偶然、その城を見たヒルメが、「あの美しい庭を気に入った。朕は、あれが欲しい」と言った。
少し腹が立ったが、上と揉めても、良い事など一つも無い。半ば諦めも有って、我がそれを手に入れ、ヒルメに献上しますと伝え、
全て消される前に、住んでいた全ての魔族を、
ヒルメに気付かれぬように別の場所に移した。
ヒルメは大層機嫌が良かった。特に庭を気に入ったらしく、長い時間、一人でよく、そこで過ごしていた。
無理矢理移動させた彼らは落胆していた。無理もない。
そこで、あれはあくまで次に備えての準備、練習であった思うようにと彼らに伝え、
より大きく、美しい都市の建造を指示し、条件の良さげな場所を与えた。
アラットと言う、美しく高い山の中腹に、新たに都市を作り始めた。
今度は我も大きく深く関わり、新たに生み出した技術も多く使い、
当初から、いずれかつて無い都市が出来るとそう思った。
そして同時に…以前と同じく、
また奪われる事を危惧し、同時に別の場所にも、こことは違う形で都市を造った。
二つ目に出来た都市は、生み出した画期的な新たな技術で、
その遥か地下より水を汲み上げることにより、
通常魔族や人間が住むには適さない様な高所にまで水を汲み上げ、そこに住める環境を持った、まさに空中都市で有った。
そして、やがて…
やはり目敏いヒルメに見つかってしまった。
勿論、「欲しい」と、そう言われた。
正直辟易していた。だがこうなる事は、凡そ予想の範疇であった為、それを危惧していた事は、まさに幸いだった。
速やかに入手し、献上するとヒルメに伝え、
前回と同じく、魔族を引き連れ、密かに第三の都市へと移動した。
手にいれたヒルメは、やはり上機嫌だった。
特に下界を見下ろす高さに感心していたが、同時に…
この朕を差し置き、魔族如きが、こんな場所に居を構えるとは、許しがたい、などと言い出した。
それを諌めるのには、随分時間が掛かったし、
ひどく苦労した。
それでも、我がズク族は皆無事に、3つ目の都市へと移れた。それだけでも良かったと、胸を撫で下ろした。
新しい都市は、目立たない様に、表向きは小さな漁村の体で造った。勿論、また奪われないようにとの配慮からだ。
故に、上からは見えぬ、深い地下に、大きな都市を造った。
ここでも、最悪の事態に付いて考え、以前と同じく、別の場所を探し始めてもいた。
そんなある日、突如ヒルメの口から、我が新たに作っていたあの地下都市を、
なんと、遂今しがた滅ぼしたと、そう聞かされた。
言葉が出なかった。
まさか、勝手に軍を動かしていた事にも驚いたが、
正直、怒りが抑えきれなかった。
我はこの世界に顕現して以来、恐らく初めて激昂してしまったのだ。
以前から、下界に一部干渉している事、そしてそれは、より円滑に生命の循環を促す為に、我が用意した駒で有ると伝えてはいた。
しかし、当然だが、それに完全に関与していたとは、今の今迄言えなかった。
それ故、起きた事故だとは、割り切れなかった。怒りをぶち撒ける我に、あのヒルメも随分驚いていた様だが、
我は滅ばされたその都市へと、急ぎ移動した。
例え僅かであっても、生き残りを何とか助けたかった。
幸か不幸か、隠していた地下部分に、一部では有るが、多くの生存を確認した。
そして彼らに、もうしばらく、ここに隠れしのぎ、探していた新たなる候補地へと、必ず我が連れて行くと約束して、
表層で殺された一族の亡骸で【呪】を行い、これ以上ヒルメの勝手で殺されぬ様、
その隠された入り口を、更に隠蔽した。
上と大きく揉めてしまった我は、次にどうすべきか、考え倦ねていた。
ここ迄の事は、事前に予知出来なかった。それがとても悔やまれた。
しかも…別に予知していた脅威が、すぐにやって来た。




