ヨミの都合 1
長い時間を掛け、慎重に慎重を喫し…、準備に準備を重ねて、ようやく…
第二天位階「完全なる無色」を、
無理矢理三重にも重ねて掛けして、
本当に、コソコソとやって来たのに、仮にも、第二天位階だぞ、
姿、形に気配や匂い、あらゆるすべてが不可視化する、上位魔法が…
それこそ、一目で、一瞬で見破られたとか…もう笑うしか無い…
どうやら、【深淵の主】は、物理的にも、魔法であっても、
どれ程深く隠れた我等神族であっても、いとも簡単に見えてしまう様だ…
なんと不条理な事か…
まさか…我等神族が、泣き言を言う側に回るなんて…
しかも…実際間近で見て、完全に理解した。やはり、自らの目で実際に見て、良かった…
【深淵】とは、そもそも闇属性の上位などでは無かったのだ。
間違い無い、あれは、恐らく【虚無】そのものだ。
そもそも、命も、色も、形も、匂いも気配も…全て、最初っから、何も無い、
それ故に、色も無い漆黒なのだ…
我等神族は、光だ。
そして、この世界の 理 に於いて、その対の存在として、
深淵、闇 が、有るのだと…そう思っていた。
数千年、数万年も生きて来た我等でさえ、恐らくこの事実は、知り得ない、史上最大の大発見だ…
間違い無く、我が最初で、そして唯一、最後であろう。
なにせ、普通…その事実を知る時は、神族は勿論、敵対する生命は全て手遅れ、
完全に消滅しているで有ろうからな…
本当に、正真正銘、我の魂の消滅を懸けた、本当に分の悪い 賭け だったが、
今となっては、この判断こそ、正解だったと言わざるを得ない。
しかも…あらたなる【深淵の主】は、
まさか、我と、神族とでさえ話の出来る相手だったとは…
何でも、此度の【深淵の主】の依代の人間は、
ここでは無い、違う世界の者だそうだ。
故に、我らに直接の柵も何も、当然持ち合わせておらん。
これ程の僥倖も、二度と有るまいて…
だが…如何せん、虚無とは、一切合切、全てを飲み込み、消し去る圧倒的に危険な存在である、
それは決して逃れる事叶わぬ、真の終焉、
解毒の効かぬ、致死の猛毒…
てっきり、【深淵】…それは曾祖神が創りし【呪】の一種かと、勝手にそう思っていたが、
根本的に違う、そもそも違ったのだ。
あれは、この世界そのものの、対の存在 だ。
我等が、増えすぎ、やがて均衡の取れざる生命の種を、
或いは急激に増え、猛威を振るう種を間引くのと同じ…
あれが、行き過ぎた行動を取った神族…いや、種を、
全て刈り取る為に、世界が持っている権能…
我等でさえ、創られし存在なのに、
あれは…根本的に違う、
元々の、世界の在り方に必要な存在…理 そのもの、その一部なのだ。
つまり…遅かれ早かれ…
いずれあれは、その本来の力を取り戻す。
理 とは、即ち絶対で有り、
理 とは、そういうものだ。
そして、例え強き、神だと祀られ、自惚れていた神族でさえ、容易く無慈悲に滅ぼすのであろうな。
それには決して、抗う事は出来ぬ…どれ程輝く光で有ろうと、
光など無力、一瞬で飲み込まれ、消え行くだろう…
なにせ、我等でさえ、従わざるを得ない、この世界、 理 そのものだからな。
世界を造った等と、奢っていたのだな…
滑稽だった。我等は、たかが、そのうわべを少し、整えただけだったのだ。
本来、我等があれと遭遇する時、
それは、我等の消滅の時であったのに…
まさか…我は、その【深淵の主】と、
肩を並べ、一緒に飯まで食らおうとは…
全く、自身で動き、ここに来た今も、
俄には、信じられないのだがな…
しかも…なぜだか、今、心が高揚している…
愉快だ。実に愉快だ。
この様な感情は、かつて一度も経験したことが無いな。
自身が決して敵わない程の強大な相手も、我は初めて遭遇したが、
まさかこの我を…神をこうも邪険に、こうも良い様に扱う者など、
この数万年間に、同じ神の仲間で有っても、
ただの一柱とさえ、居なかったのだ。
だが…それは当然だ。そういう存在なのだから…上には上が…まさにそうだ。思い知った。
とにかく、絶対の恐怖以上に…
同時に今、なぜだか大変愉快で仕方が無い。とても妙な気分だ。
こうなると、もはや、【深淵の主】と対立する等、真の愚者…愚の骨頂であろうな。
そばにいて、利用し、利用される関係こそが、我に残された、唯一にして最上であろう。
あれは、全てを容易く切り裂く、神剣…そして諸刃の剣だ…
慎重に、そして、誠心誠意、こちらに敵対の意思が無き事を、【深淵の主】に信じさるべく、我は急ぎ努ねばならん。
さもなくば、我程の存在であっても、
あれから見れば、そこらの、ただの塵芥でしか無いのだ…
相変わらず、どれ程念じようが【深淵の主】に関する未来は、一切見えない。
だが、この関係を上手く活用出来れば、
それなりの未来を、我は作る事は、出来そうだ。
唯一の懸念、困った事と言えば…
我の分体の生き残り…あれらの動きだな。
ヒルメからなんとか生き残る為に、それぞれに別の人格を与えたのが、今、まさか、仇になりそうだとは…。
唯一我の支配下だった筈の、あのレホーが、
まさか、魔蟲を使って、獣人をけしかけ、【深淵の主】を狙ったなんて…
これは良くないな、他の人格も、相当警戒すべきだな。
なにせ、人呼んで、世界最大の大悪党…らしいしな。我ながら…
きっと、彼は怒るだろうが、ここは正直に話して置く方が、今後我にとっては…
後々の為にも、それが良いだろうな。




