事情2
朝の礼拝の後、私の元に一人の若い男が現れた。
男の顔には少し見覚えが有った気がしたが、直ぐには思い出せなかった。
「おはようございます、使徒マーヤル様」
男は、ただこの教会に祈りを捧げに来ただけでは無いと、直感で思った。
「はい、おはようございます、さて、どちら様でしたかね、この老骨は物忘れが酷くて、いやはやいけませんね…歳は取りたく無いですなあ…」
男は静かにほほ笑む。
「以前、トクアのヨミ神殿でお会いしました、私は、レホーと申します」
「おお、そう、確かに。そうそう、ヨミ神の神殿の大階段の上に、ご友人らとにいらっしゃいましたな…」
「はい、まさか覚えて居て下さっておられるとは、何とも光栄ですね」
これは、遥々良くぞお越しくださいました。何も無い小さな教会ですが、どうぞゆっくりとお参り下さい。
ありがとうございます。ところで、使徒様、もうあのお話はご存知でしょうか?ヨミ神殿の修復で運ばれた、建材の話です。
そこに、この教会と同じ、あの文様が有ったんですよ。
はて?初耳ですな。近頃は腰を痛め、余り外にも行けませんので…
では、お話致しますので、是非お耳に入れておいて下さいませ。
私は先の地震で一部が壊れてしまった、ヨミ神殿の補修を行っておるのですが…
そこで補修に使う石組の中に、随分と私達の使う石材違う、とても古い妙な石材を幾つか見つけまして…
妙に気になったもので、搬入した者に仕入れ先を聞いたのです。これを何処から運んだのか?と。
すると、トクアのさらに北のカエギの、更に北へ1日程行った、マッツと言う小さな集落の近くに丘があって、その横に広がる森の中に古い廃棄遺跡があって、どうもそこから運んできたそうです。
そしてこれを…
男は、布に包まれた小さな石の欠片を見せた。
運ばれた建材の一部に付着している石なのですが、とても不思議な力を感じます。
元々、それが有ったそこには、黒くて大きな石が有ったそうです。
ですがある時、
その石は突然、消えてしまったそうです。
どうも地面とくっついた石を、無理矢理引きはがし、引きずって運んだ痕跡が有ったようですが、
いつ、誰が、何の為にかは、全く不明です。
私の祖父は、こちらの教会のすぐ近所の生まれです…
私が子供の頃…
そう昔よく、深淵の神の話を聞かされておりましたもので…
ひょっとしてと…そう思いまして。
「何と!そ、それは本当ですかな?」
おい君、そうテベス君、悪いが直ぐに上の部屋の皆をここに呼んでおくれ…至急で頼むよ…
確かに、トクア近郊、カエギ辺りは候補地の一つだった…可能性は捨て切れんな…
…しかし、遺跡だと?
あの辺りは何度も調べた筈…なのに…
確か【口】も【耳】も、あの辺りは諦めて、長らく探していなかった筈だったな…
おお、確か近々、アルデントが、あちら方面の、
確か、トクアとエモラのヨミ教会の会合に行くとか、言っていたな…
よし、ならば、別の護衛も馬車の手配も要らないし、こりゃ丁度いい、勝手だが同席しようじゃないか。
ああ皆、こっちだ。
紹介しよう、彼はレホー君、
我等に福音を齎してくれるかも知れない、良き友人だ。
さあ、急に忙しくなって来たな。
もう腰が痛い、なんて言ってられんな。
「そうそう、レホー君、君の持つ石を、もう一度見せてくれるかい?」
「あ、はい勿論構いませんよ」
さあ、イサークよ、その【目】で何が見える?
「はい、使徒マーヤルさ…え?」
驚きました…僅かですが、特異点と同じく、石の周りに闇が纏わって居ます…これは、一体?
そうかそうか、やはりもう行くしか無い様だな…
ここにいる皆にだけ告げるよ、
私は、近く行われるエモラの会合に行くアルデントに同席し…
のち、その更に少し北、マッツと言う場所へ行きます。
まだ未確認の情報故、無駄に騒ぎにならぬ様、当面は内密にね。
何か見つかれば、直ぐに大騒ぎ、そんな大発見かも知れないね…
おお、ザジよ、丁度いい、確か君アルデントに同行するんだろ?
だったら伝えておくれ、
訳あって、私も会合に行く、同行すると。
君にはまだ2つ、貸しが有るからなと、アルデントにそう言ってくれ。
「…ええ?私が…ですか?」
…あの方、結構怖いし、ネチネチ言うんですよ?ヤダな…
「頼んだよ、ザジ」
…はいはい、お伝えします。
ところで、護衛は増やしますか?
いや、かなりの田舎だ、何か出るって言っても、せいぜい、猿か猪くらいじゃないか?
ハハハ、脅威も何も無いよ、あの辺りは…
なにせ【口】も出店さえしてない位、何も無いド田舎なんだからね…
そうですか…会合の後は、向こうで少しゆっくり出来そうかなあ…と思ってたのに…
そうですか…つまり野宿ですか。
一昨日、別件から戻ったばかりだったのになあ…
はいはい、…しっかりと準備しときまーす。
…全っく、人使いが荒い【使徒】様だこって。
さ、ついでにアルデント様の小言も、聞きに行きますかね…




