逃避行4
私は一先ず、
恐らく追って来るであろう、犬系の獣人対策をしておく事にした。
奴らの鼻を殺す臭い玉を数個、荷物から出す。
おっと、もう来たのか、速いな…
私の準備よりも早く、強い気配と獣臭を風上から感じた…
招いても居ないのに、客が来やがった。
女を置いて、気配を消して周囲の様子を伺う。
…斥候、二人…
それ以外にも、少し離れた場所に、幾つか気配があるな。
近くの敵を探りつつ、静かに、確実に処理する。
しかし…
おいおい、こりゃ思ったよりも、随分と多そうだぞ。
…下手をすると数十、いや百近いかも…
何だ?
いや、何故?
誰を?何を探してるんだ?
取り敢えず、先ずは女を先に逃がす事にした。
正直、俺一人の方が何かと動き易いし、
有難いことに、割と近くに丁度いい、信用出来るお仲間も居る。
ただ、奴はかなり用心深い性格だからな、多少心配だが。
そうだ、俺だと判る様に、印剣を持たせよう。
…万が一、
俺が殺られて、奴らに印剣を奪われない為にも…
いや、みすみすアレを奪われたなんて、きっと末代までの笑い者だ…
そうだな、そっちの方が都合が良いな…
そうそう、名前だ。
…まあ、覚えるなんて身内でも難しい長い名前だからな、
まあ、あの昼メシネタでも話しとけば、
流石に信じるだろう。
静かに剣を握る。
ラクダに水を飲ませ終え、
女を送り出した。
さあ、一仕事だ。
少しづつ、敵兵を一方向に誘い、
そして始末していく。
そして、
意図的に枝を折ったり、地面に敢えて足跡を付けて、
更に、臭い玉や血袋も砕き、破いて撒いておく。
数カ所で、行く先の偽装と細工を行い、
散らばった追手を、更にアチコチに散らす。
そして始末した騎兵や斥候から、有難く元気の良い馬だけを選んで頂いていく。
追手を巻きつつ、
それぞれの指揮官や、指示役、
匂いを追う獣人だけを狙い撃つ。
投げ物は、あいつ程得意では無いが、
地面に鼻を近付けた獣人は、
つまりわざわざ弱点を無様に晒してくれている。
藪に身を潜め、誘い、
そして、遠慮なく暗器で頭を撃ち抜いた。
私の目に付く、仕事の出来そうな奴らは粗方始末した。
「おい、向こうに居たみたいだぞー」とか叫んで、
走り出すガラ空きの背中を、サッと…
ある程度、あちらさんを混乱させてから…
まあ、少し時間が掛かってしまったが、ようやくこの場を離脱した。
時々細工をしつつ移動する。
奴らの本隊が迎うであろう場所の方向を確認し…
私が安全に移動出来るい道筋を…いや、探すまでもないな…
行き先はアッチだ…
あれか…
いや凄いな………
もう向かうべき先は、嫌でもはっきりと判る。
多分…間違い無い。
あの場所に…
…居る。いや そこに居られるのだろう
遥か天に立ち昇るかの様な、深い暗黒の炎、
闇の亀裂…
向かう程に増えていく無数の特異点…
こんなのは初めてだった…
全身に緊張が走り、
呼吸も速くなる…
【目】が痛い…
身体中の魔石が強く、ずっと反応している
神…
遂に…
この地上に、我らの眼前に…
身体中に感じる圧倒的な畏怖…
そう、畏怖だ…
正直、恐ろしいと感じる…
あれは…
人の領域の…理の外、
人間ごときの物差しでは測れない…測ってはいけないなにか…
おいそれと、気安く触れてもいけない…
あれこそが、
いや、多分…死?
決して逃れられぬ、絶対の…
死の気配そのものだ…
…そうあれこそ【深淵】なのだ。
我らが千年もの長き時を、ただ只管に探し求めし絶対の存在…
【深淵の破壊神】様だ…




