鬼退治 2
さて…いよいよ本日のメインイベント。
六十分一本勝負を執り行います。
まずは赤コーナーより、選手の入場です。
赤コーナー…挑戦者、名前はまだ聞けてませんが…鬼族の親分っ!!
おーーやーぶ、うんーーー!!
続きまして、青コーナーより、選手の、入場ですっ。
ここでブルートゥーススピーカーから、
中村あゆみの、風になれ♪ を再生ボタンを押しつつ、
すぐ様、頭からタオルを被る。
そう、鈴木みのるの入場である…
ゆっくりと歩き出す…ゆっくり、ゆっくり、うつむき加減で、
時々立ち止まり、周囲を威嚇しながら…
そして、いよいよ曲がサビに差し掛かり、
♪輝きの中でぇ〜の歌詞の直後、
ロープ(※実際には有りません)を、サッと跨ぐ…動きのあと、クルッと回って…
かっぜっにぃ゙、なっれええええ♪の、掛け声と共にタオルを取り、
鬼の大将に向かって、思いっきりガンを飛ばす。
決まった…完ぺきだな。
ただ?鬼族達は、ポカーーーン、だった。
急に音楽が鳴り、タオルを被った俺の動きの、その意味が良く分かっていないらしい。
うーーーん、やはり無理が有ったか…
ま、まあ…良いや。俺は充分満足だしな。
やりきった感に包まれてるし。
ふと気付けば、既に周りは、完全に囲まれていますね…
だが問題無い。今度は決して、押し返す事が不可能な力の一方通行、境界線の壁で自分の身体を包む。
頭にふと過った…一回やってみたかったヤツ?
手のひらを上にして、ゆっくりと上から腕を下ろし…
丁度、鬼の大将に辺りで腕を止める。
そして、人差し指と中指を同時に、クイクイッっと曲げる。
そう、ブルースリーの、掛かってこいよのポーズだ!
どうやら意味は通じたらしい。
案の定?
怒りの形相で、鬼の大将がぶっ飛んで来て、勢いよく俺をぶん殴ったが…
血まみれになったのは、寧ろ、鬼の大将の拳だった。
びっくりしつつも、
手もかなり痛かったらしく、反対の手で押さえてるな…
イヤイヤ?
アンタどんだけ力いっぱい行ったのよ?
加減って知らないの?バカなのか?
鬼の大将…それでもガンガンと、俺をひたすらにぶん殴って来る。
まあ…俺には全く当たって無いんだけどね。
ただ?周りで見てるぶんには、
血しぶきを上げながら殴り続ける大将と、
仁王立ちのまま、一歩も動かない俺。
しかも全くの無傷で。
異様な光景だろうね。
鬼の大将も、猛ラッシュで流石に息が上がったらしく、
ハアハアと肩で息をしている。
じゃあ、こっちも行くぞ?
俺はニヤリと笑い、見上げる様な大男に向け、黒い炎をまとったエルボーをフンッっと、
その土手腹に強く叩き込んだった。
馬鹿げた衝撃と威力に、苦悶の表情で身体を大きくくの字に曲げた大将の…
その頭を左手でふん掴み、
軽く振った右腕から、
鬼の顔面を、横からエルボーでぶん殴った。モノごっつい鈍い音とともに、
その首が完全に振り切れて、
そしてそのまま膝から、ゆっくりと崩れ落ち、
白目の鬼の大将は、俺のエルボー二発で、セルリアンブルーのマットに沈んだ。
…いや、ただの地面でした。
普段、この親分が負けるなんて、あり得ないのだろうね。
周りの連中は、その事実をまだ受け止め切れないらしく…
皆、大きく口を空けたまま、すっかりと固まっていた。
俺は周囲を威嚇しながら睨みつけ、ゆっくりと左右に目を配りながら、そして言った。
で…
次はどいつだ?…と。
一気にざわつく周囲だったが…
そこで俺は指笛を鳴らす。
すると上空から、黒い獣がヒラリと舞い降りてくる。
グルグルと、低い唸り声を上げながら、漆黒のグリフォンが周囲を激しく威嚇している。
更にその反対側には、これまた漆黒の巨大な八咫烏が、フワリと空から舞い降りてくる。
鴉もまた、周囲を威嚇している。
幾ら強かろうとも、ここにいるのは高い戦闘力を誇る鬼族である…いっそ全員で囲んでしまえば、たかが人間如き…
そんな考えは、
例え勇猛と名高い戦士の心でさえも、いとも容易く粉砕した。
糸の様に細い希望…唯一逆転の目も、
この一瞬で、完全に潰えたのだ…
死を振りまく厄災と、
死を運ぶ怪鳥の…身の毛もよだつ、その圧倒的な神獣の恐怖によって…
彼らの目の前には、
フハハハ…と、狂気じみた笑いを撒き散らしながら、実は神獣よりも強いであろうと思わせる…
どう見ても人間にしか見えない…
だが明らかにおかしな強さの、
人間の皮を被ったなにかの…バケモノ…
鬼族の幹部らもハッキリと悟った。終わりだと…
最早神獣相手に、何処にも逃げ場など無い。
ここは既に、厄災と悪夢を引き連れた、バケモノの領域だった。
そこにはただ、圧倒的な絶望だけが支配する空間…
最早、全員の死が目の前だった。
…
……
静寂の中、俺は静かに語り出す。
良いか?よく聞け。
お前らに許された選択肢は、二つだ。
服従か、死だ。
期限は…そこの大将が起きて来るまでは待ってやる。
それまで、ゆっくりと考えておけ。
じゃあな、また来るぜ?
そう言って俺達は【深淵】へと消えるのだった。




