異国の女5
その男、ミゲヤは手紙を受け取って中身を見た。
眉間には深い皺ができ、時折、大きく息を吐き出した。
3枚目を読み終えると、その内の1枚を私に渡してくれた。
「これは貴方…宛だな」
姫の真名、預けられた経緯の当たり障りのない程度の説明、食べ者の好みや嫌いな物、食べると調子が悪くなる物…姫様の扱いやクセ、そう言った事が、小さな文字でびっしり書かれていた。
私に、では無く、
正確には、姫様を連れ出した者への手紙だった。
貰った手紙を読んでる途中で、ミゲヤ様が言った。
「多分、客だな…」ちょっと様子を見てくるから、動かないで、ここに居てくれ。すぐ戻るよ。
暫くして彼が戻った。剣を握っていた。剣の刃には血が付いていた。
「数が多いんだ。しかも獣人だ…」
アイツら、とにかく鼻が利くんでな…
ちょっと、放っとけないわ。
貴方は先に出てくれ、後で追いかけるよ。
そう言って、
男は、謎の生き物をしゃがませた。
「あれ、あんたラクダ知らないの?そうか」
このコブの間に座ってくれ、あ、手綱は持ってな、
でもうちのは特別だからな、放っといても勝手に家に戻るんだよ。
つまり、あんたらはただ乗ってりゃ良いから、ほいっ、
ミゲヤは短剣の刃をサッと河の水で洗い、白い布で巻いて、こちらに差し出した。
これは貴方が私の仲間にあった時に、見せてくれ。
ラクダが止まった場所の近くにいる、
エギラって男を探せ…エギラな、
「あと、コレ言っとかないと、一種の暗号かな…」そう言って、笑って話をした。
私達を乗せると、ラクダは立ち上がり、
「よし、大至急だ、頼むぜ、相棒っ、」ミゲヤはラクダの尻を叩いた。
「貴方はどうするんですか?」
いや、流石に大人二人は乗れないのよ、
それにさ…
奴等にちょっと、説教しとかないといけないからな、
女一人追うのに、何人出してんだって。
まあ、すぐ追いついて見せるよ、じゃあ、
ミゲヤと言う男は、走って闇に消えていった。
ラクダは主人を気にする素振りも無く、
私が歩くよりはずっと速い速さで、
ただ、黙々と走り続けた。
馬よりは幾分遅いものの、長時間、同じ速度で移動していた。
途中、何度か意識が落ちかけたが、落ちないでよかった…
やがて夜が明けた。
ただ真っ直ぐ、全く止まらず移動を続けたラクダは、ある場所で大きく曲がり進路を変えた。
目の前の小さな山を迂回して、
その裏側の小さな村に着いた。
村の中の、壁のない小屋の前でついにラクダは止まり、
そしてしゃがんだ。
キョロキョロ周りを見渡す私に、
ラクダが降りろッと催促するように鳴き、そしてこちらを睨んだ。
「ああ、ごめんなさい、疲れたよね」
慌ててラクダから降りると、
ラクダはスッと立ち上がり、
目の前の水桶に顔を突っ込んだ。ゴクゴクッと大きくのどが鳴った。
その後ラクダはしゃがみ、口をモゾモゾ動かしながら、…寝た。
寝てしまった…
ちょっと、ラクダさん、寝ないで、ねえ、、ちょっと…起きてよ、
ダメだ…動かない。
暫くして、どこからか村人が集まってきた。
「あんた誰だい」
「そのラクダ、何だ、ミゲヤの客かい?」
私は頷いて言った。
「エギラさんは居ますか?」
「何だよ、商会の客か?」
エギーの旦那は、隣村の、入り口側すぐの店に居るよ、
…仕事が無きゃ多分。
いや待て、
…ほら、雲が黒いだろ…多分もうすぐ雨だからさあ、
今日はきっと、ダラダラ寝てるよ…
皆、そう言って笑った。
「そこは、遠いです
か?」
「いや、すぐそこだよ」
分かりました、ありがとう御座います。どっちに行けば…
村人は一斉に同じ方向を指さした。
視界の先、小さく建物が幾つか見えた。
私は最後の力を振り絞り、
皆が指差す方向へ歩き始めた。




