異国の女4
随分と長い間、老婆は、一方的に話し続けた。
合間、合間にお茶を飲み、時々、思い出したかの様に、こちらに質問をした。
満足するほど喋れたのか、老婆は上機嫌で帰って行った。
…疲れた。
結局、食事も取り損なったが、
既に姫は寝息を立てていた。
これが無料の宿の正体だったなら、
ある意味、納得だと思った。
深夜、姫が私の顔を軽く叩いて起こしてきた。
厠に行きたいらしい。
一緒に外の厠へ行った。
綺麗とは言えないまでも、ここもちゃんと整理されていた。
厠から戻ろうかとした時、月明かりの坂の上に、
複数の老人たちが松明を持ち、
誰かを案内してくるのが遠くに見えた。
嵌められた…
瞬間的にそう思い、
慌てて荷物を担ぎ、それと反対の方向に向かって直ぐに村を出た。
道ではなく、横の林の中の奥に、静かに身を隠した。
村にいた老人は皆高齢で、多分十人も居なかった筈だ。
山狩が出来る規模も、ましてや体力も無いだろう。
少し眠れたせいか、意外と動けた。
だが、油断せず、ゆっくりと商会の方面に向け、
移動を開始した。
小さな林を抜けた。
抜けた先は草原で、割と開けていて、月明かりでの移動でも全く問題はなかった。
この辺は、沢山の河の支流が入り乱れ、複雑な地形になっており、見通しはあまり良くない。
逃げるには丁度よいと思った。
そして身を隠せ、休めそうな場所を探した。
早足で歩き時々後ろを確認したりしたが、追っては居ない様だった。
しばらく移動したその少し先に、
焚き火と、繋がれた馬の様な生き物が1頭が見えた。
目を凝らしたが、人の気配や姿は確認出来なかった。
場所を変えながら、更にゆっくりと接近した。
助けてくれそうか否か、見極めようとした。
突然、肩を叩かれて、ヒッっと短い、小さな悲鳴を上げ、
その場にへたり込んでしまった。
男が「おっとスマンスマン、驚かしちまったな…」
大丈夫か?立てるか?男は手を差し出した。
私の探していた、あの商人と、とても似た顔付きと服装だった。
目を覚ました姫様と目が合った…
私は思わずその場で泣き崩れてしまった。
男はひどく困惑し、オロオロしながら、
ただひたすら私に謝ってきた。
男は私が落ち着くの待って、
「私は、行商人のミゲヤだ」そう名乗った。
焚き火のもとに案内された。服の下が濡れただろ?乾かしてくれ、後ろ向いてるから…男は言ったが、私は構わず質問した。
「貴方は西方香辛料商会の方ですか?」
男は少し考えて、
私は商会の人間では無いが、身内って言うか、そこと深い取引は有るよ、
と、そう言った。
私は急ぎ、そこに行かねばなりません、どうかご助力頂けませんか?
そう尋ねた。
「まあ、構わないけど…」
ただ、こんな時間に、散歩って訳じゃ無いよな、
詳しく話してくれるかい。そう言った。
「貴方は本当に、本当に関係者ですか?」
…ああ、初対面だしな、警戒するのはまあ、当然だな。
そう言って、男は見たことの無い生き物の背中の荷物から、
幾つかの香辛料と、
商会の取引の覚書の様な紙を数枚見せた。
そこにはあの商会の印が大きく押され、男は関係者で有ろうと判った。
私はそこで手紙と【深淵】の情報を話さなければいけません。
ブフッ、
男は飲んでいた水を盛大に噴き出した。…は?
「いやいや、いやいや、一体貴方、何者?」
男の雰囲気が明らかに変わった。
「追われてる様だけどさあ、貴方、商会と深淵の関係、…知ってるの?」
詳しくは知りません、ですが、領主の奥さまに、
命がけで頼まれたのです。託されたのです、
「…何処の領主?」
「エ、エストーですっ…」 「…うわあ…」
男は、
「参ったな…」
で、領主さん、サザーリンはどうした?
領主さんは判りませんが、おくさ、多 分…え?
…領主とお知り合いなのですか?
「…ああ、私の元、上司なんだよ」
…驚いた?ホントに関係者だ…。
私は手紙を見せた。




