異国の女3
馬車に揺らていた。僅かの間だったが、どうやらうとうと眠っていた様だ。
どの位移動したのか判らないが、日の傾き具合が、あれから数時間以上経ってると教えてくれた。
「姉さん、起きてるかあ?」
積み荷で見えなかったが、前から女の声がした。
「はい」
「もうすぐ日の入りだが、あともう少し先の水場まで行って、今日は野宿だ」
それから暫く走って馬車が止まった。
2台の馬車を並行に並べて、上とその間の部分に布を這わせ、あっという間に即席テントが出来た。
向こうが4人、男2人と女一人。そしてヒョウの頭の、女の獣人が一人。多分獣人は護衛だ。テントの前と後ろに焚き火が組まれ、後ろの焚き火で女が調理を始めた。馬は手綱を解かれて足を水に着け、
男が短い毛のブラシで、優しく身体に撫でていた。
獣人は、暫く身体を動かした後、
大きく背伸びをしながらゆっくりと前の焚き火まで歩き、
そこに腰を下ろした。
そこが定位置の様だ。
「さあ、出来たよ」女の声で全員が集まった。
あんたらも座んな、そう言われ、獣人の横に座った。
渡された器には野菜くずと僅かに肉の入ったスープだった。
「食器はソレしか無いからね、二人で頼むよ」
少し冷ましてから、先ず姫様に与えた。姫様と呼ぶと余計な詮索が入ると思い、我が子のように接した。
獣人は干し肉を噛じっていた。熱い物は食べないそうだ。手持ちの干し肉では足らないようだったので、先の場所で買ったこちらの干し肉を1枚、では、どうぞと差し出した。
「おお、良いのか?気が利くな、助かるぜ」
その代わりにさ、何かあったらよ、
そこのメドのおっさんより先に、貴方らから助けてやるよ、
そう言うと、
「じゃあ、もうお前の報酬、払わんで良いよな?」
男がそう言って、皆が笑った。
テントの中は、更に布で仕切られ、
厚めの布を地面に敷き、その上に毛布で包まって寝た。
商人らは私達とは別れて眠った。獣人は、テントには入らず、テントの屋根で寝ていた。
一応、用心の為と、必死で起きては居たが、努力の甲斐も無く、
いつの間にか眠っていた。
そして朝が来た。
軽い食事の後、
商人らはさっさとテントを片付けて、馬車に馬を繋いだ。
それから、昼頃まで進んで、途中の小さな村で降ろされた。
ここから彼らの目的地は、エィードとは反対方向だそうだ。いつの間にか、獣人と姫は仲良くなっていた。別れる時、寂しそうな顔で小さな手を、ずっと振っていた。
村に入り、エィードに向かう馬車か何か、
そんな移動手段が無いかを聞いて回った。
村は老人しか居なかった。
ここには馬も牛も居ない、
数日おきに来る行商に頼め、
そう言われた。
最悪、長期戦になると判断し、
早めに宿を取ることにした。
「宿は何処ですか?」
そう聞くと、
老人達は笑った。そんなもんは無いと。
どうやら、村には複数の空き家があり、そこが商人達の宿代わりだそうだ。
案内されて1件の古びた家に入った。見た目通り、中もきれいとは言えなかったが、
それでも思いのほか、整えられてはいた。
「別に宿代は要らん、元々空き家だ。だが、きれいに掃除して、今より綺麗にして返すのが条件だ。良いか?…」
「分かりました」
彼らは何故、お金を取らないのだろうか?
見た処、畑も家畜も居ない…
一体、どうやって食べていけるんだろう…
不思議に思いつつも、老人が帰ったあと荷物を降ろし、
そして囲炉裏に火をつけた。
暫くすると、一人の老婆がやって来た。小さな鍋を持っていた。
こちらが招き入れるよりも早く、笑いながら老婆は、勝手に上がり込んできた。
如何にも話好きそうな、愛想の良い、老婆だった。
そして、持ってきた鍋を火に掛け、根掘り葉掘り、
老婆は色々と質問を投げかけてきた。
鍋の中身はお茶だった。
この家に有った器を勝手に出してきて、慣れた手付きで茶を注ぎ、渡してくれた。
…悪意は無さそうに思えたが、
商会に勤める、病気で動けない旦那に会いに行く所だ…
と、適当な作り話を語った。
「そうかい、そうかい、大変だねえ…」そう言いながら今度は、老婆の自分の身の上話を、
…延々と、語りだした。
…長期戦に、長い夜になりそうだった。




