異国の女2
そして地下に降りた。
辺りは薄暗く、近くの壁の松明に、持っていた松明で火を付けた。
そこには、3本、3方向の細い水路に、
それぞれ小舟が、計4隻停められていた。
2隻並んだ舟と、その反対の船に、
予め用意、纏められていた食べ物や水、旅の荷物を、
メイドはそれぞれの船に、それらを手際よく積みこんだ。
私の乗る船に積まれていた小麦や穀物の俵荷は、
商人の様に見せる為の偽装用で、中身は空だった。
案内され、2隻並びの船の前側の船に、私と姫が乗せられた。
そしてメイドは、その反対側の船に一人で乗るらしい…
囮になるつもりだと、理解した。
荷物の中に有るマントを、頭から被るようにと指示された。
見れば同じ様にメイドも被っていた。
先に私の乗った舟が流された。
「姫様をお願いしますね」
「姫様どうかご無事で」
水流によって、漕がずとも舟は進んだ。
後に残った船が残る事で、
こちらが使われて居ないと惑わせる為だなと、感心した。
そして、反対に流されていくメイドの舟を、僅かの間だが…
それが見えなくなるまで目で見送った。
メイドは自分の身を省みる事も無く、ずっと姫様、姫様を…と、泣いていた。
あちらは解かれた紐がわざと残してあり、
そして船がない、
如何にも舟が出た、そう思わせる…つまり、追われる、追わせるつもりなのだ。
どうか彼女が助かれば良いのにと、
そっと神に祈った。
それ以外、何も出来なかった。
水路は思いの外長かった。
天然の川を利用していて、幾重にも曲がりくねっていたが、不思議と何処にも引っかかる事もなく、
舟は静かに進み続けた。
暫くして船は、長い洞窟部分を抜け、
やがて、大きな河に合流した。
そこからはその流れに乗ったまま、時々舵を取った。
恐らくほんの数時間だったが、
既に目に映る景色はもう、
自分の知らない土地、世界だった。
実は、自分の国を出たのは、これが初めてだった。
多くの支流が交わり、やがて商人の小舟や、大きな荷を積んだ舟が、段々と、少しづつ増えていった。
妙に見通しが良い場所に来た。
顔を上げ、周りを見ると、河の奇妙な曲がり方と、遠く隣の別の河が、此方に近付いてくる様子に気がついた。
それに覚えがあった。
すぐ近くに、
別の大きな河が有って、流れが大きく近づく場所が有る、
まるで二匹のヘビがケンカでもしている様な、
そんな珍しい地形の場所が有る、
以前、
城に来る商人の地図を見せて貰った時に、
とても面白い地形だと感じていたのを、
その時ふと、思い出した。そうだ、あれだ。
そして、地図のその辺りから、左にすーっと指をなぞり、
「ここに有る大きな橋を渡り、
そこからこの南行きの街道を通って…
私どもは遥々、こんな遠い街からやって来たんですよ…」
落ちそうで落ちない、奇妙な大岩が有るとか、
河の支流が沢山あって、
魚料理が旨いとか、
遊牧民や商人が沢山居るとか、
ヘビが多く、
皆ヘビを食べる…とか…
二本の河の間には、小さな山があったが、
それでは不便だと、
多くの商人達がお金を出し合って、その山を削って、平らにした…とか、
確かそう言って、
城の広間で、
面白可笑しく、自分達の冒険譚を、
お茶を片手に、
エィードと言う街の商会のある場所を、延々と話してくれた。
あの時は、
決して行くことなんて無いだろうな、
と思っていたのに。
人気の無い場所に舟を寄せ、陸に上がった。
暫く舟に揺られていたせいか、足元がフラフラしていた。
人が集まる場所に行く。
近くで乗り物、馬か牛、
せめて、荷車でも借りれないか、買えないかと、
色々当たって見た。
小さな子供と荷物を抱え、この先進んでいく自信はとても無い。
言葉が通じない人が多かった。
南行きの街道に進むであろう、
そちらに鼻を向けて馬車を止めている、
出発の用意をする何人かの商人に声を掛けた。
そのうち、
言葉が通じる行商人が、金を払えばエィードの途中まで、うちの荷車に乗せてやるよ、
と、そう言ってくれた。
他のそちら方面の荷は、まだ次の荷を待ってる。それを積んで出発するから、
あれらが出るのは、少なくとも明日か明後日だよ。
うちはこれだけなんでね、すぐ出るよ。
そう教えてくれた。
近くの別の商人から、少しの水と食料を買い足し、金貨を崩し、支払う代金を用意した。
そして商人の荷馬車に乗った。
橋の集積地を後にし、
荷馬車は進み始めた。
止まっていた別の商人らが、
この荷馬車と、お互いに声を掛け合い、挨拶をしていた。
気づけば、
疲れたのだろう、幼い姫は、ずっと眠っていた。
ここ迄は何とか来れたが、
この先の事を考えると、心配で心配で、胸が張り裂けそうだった。




