アザーエルの仕事3
私の真名は後で良い。
とにかく、長い名前ばかりの身内でも、一番長い。
それに関する身内の冗談話まで、いくつか存在する位だ。
仲間や兄は、エギラと呼ぶ。それで良い。
12歳から働き始めた。この辺りでは割と普通だ。
主には神殿の清掃や食事、神事の手伝いで、
皆お揃いの神官見習いの白い服を着て、毎日を神官と信者に囲まれ、暫くは平和にそこで過ごした。
この世界には、6柱の神様がいると言う。
しかし、
ここは7番目?、
いや普段は居られないが、
いざって、時にだけ現れる特別な神様…
この神殿はその
【深淵の神様】をお祀りしている。
神様には名前が有るが、気安く呼んではいけない。不敬だからだ。
神様の姿も、実は、国の偉い人は知っている、
と、そんな噂が有るそうだが、
私達は想像もしてもいけない。
やはり不敬だからだ。
…不公平だと思う。
神様は人間には見えない。
例え、すぐ横にいらっしゃったとしても、
どれだけ頑張っても、
私には見えないそうだ。
何故なら、この世界の裏側、それは、大きな布の表に我々がいて、
裏側に、神様が居られるから、
例え何か感じても、見えないだろ?そう言う物なのだよ、と、そう教えられた。
ある時、神官さまのお一人が私に言った。
実はね、もうすぐ17人目の【神の目】が誕生するんだ、と。
【神の目】は、特別な奇跡を身体に宿した、
この国の、選ばれし英雄の事だ。
特別な日の特別な時間に生まれた赤子、
それも男子がだけが選ばれると言う。
その日は神の眠った日と言われて、この国の記念日だ。
更に神官さまは言った。
君は真面目で、信仰心も素晴らしい。
そこで私達司祭の、更に特別な仕事のお手伝いを頼みたいんだ。
別に怖い事や、痛い事も無いよ。
だって昔、私もやっていたからね。
そうそう、最近は剣の稽古もしているんだろ?良いねえ、それは良い。
その仕事はね、とても特別な仕事なんだよ、
どうだい、一つ頼まれてくれるかい?
「はい、喜んで」
二つ返事だった。
そして、その日会う【神の目】こそが、
自分の身内、親戚の男だと内緒で教えられた。
初めて会ったが、確かにおじさんにそっくりだった。
数日後、
ここら辺りで一番古い、祈祷院と呼ばれる神殿に呼ばれた。
普段は立ち入りが制限される、
国でも一番、由緒有る神殿と呼ばれる場所だ。
新たに【深淵の目】が生まれると、それに合わせ、同時に【アザーエル】が増員される。
私もそれに選ばれたらしい。
その組織は、有るとも言え、無いとも言える。
誰もが皆知っているが、国はそんな者達は居ない、知らないと言う、
…変な組織だ。
私は儀式の後、貰った綺麗な剣を磨きながら、
ぼんやり、窓の外を眺めていた。
あれから随分時が経った。
あの時、窓から見た世界は平和だった…
…チクショウ、何〜が、
痛い事も、怖い事も無いだっ、
毎日そればっかりじゃないか、クソっ。
あの人は多分、相当良い場所の担当だったんだろうな…
いや、強いコネでも有ったか…
私は北側の小さな国々や、国どころか、街にも満たないような、ほんとに小さな村や集落が多い場所の担当だった。
肝心の【口】の商会も、拠点はおろか、行商さえも稀だった。
報告の度に、一々長旅せざるを得なかった。
田舎だけに、野生の獣に、獣人、人獣、
盗賊にやられて怪我した仲間の保護…
忙しい、とにかく忙しかった。
意外と特異点も多く目撃される割に、
一体この対応は如何なものか?
私は事有る事に、
それはもう、
何度も何度も何度も、ずっと本部に苦情を入れた、入れ続けた。
仲間はそれを見て、
「いつもの光景だな」と、笑っていた。
その甲斐があってか、
ある日、商会の出張所が出来た…それも無人の。
月に2回程、商会から行商が来て、
その日と翌日だけ開店する店。
…しかも私が、何故だかその店の責任者だった。
無人の間の店の管理が私、とか?
…は?ふざけるなよ、
だが、
嫌なら閉めるぞ、という、脅し文句に負けた。
そもそも私は【耳】だ、耳の剣なんだよ…
なのに、何故だ。
でもなあ、【口】の今の一番上の責任者、
私の叔父なんだよな…
絶対、足元見てるよな…
嗚呼、世の中って世知辛いよな…
おっと、またイノシシだよ。
まあ、さっさと仕留めて、
今晩の飯、だな…。




