アザーエルの仕事2
どうやら、儀式は恙無く終了したようだ。
「今日一日、顔は洗わないようにね…」
そう言って、それを書いた神官さまは笑った。
「君は、【アザーエル】の中の【耳】
そして【剣】だね」
そう告げられた。
神官さまらに案内され、儀式神殿の横の、別の小さな建物へ入った。
中には丸いテーブルと、あの椅子 があった。
掛けたまえ、そう言われ、3人の対面側に腰を下ろした。
驚いた事に、椅子は神殿の 神の椅子 とほぼ同じ物だった。
「良いのですか?」と聞いたが、3人は笑って、良いんだよ、掛けなさい…そう言われた。
3人の仕草には威圧も、怖さもなく、問題無いのだと理解した。
アザエルの関係者、
神官は【アザエルの使徒】と言い、
神官以外は【アザーエル】と言う。
アザーエルは先ず、
【目】【耳】【口】の組織があって、
そしてその中にそれぞれ【剣】が有る。
【アザーエル】は、それぞれの使徒の 手 であり、足であり、
それぞれ別に、それぞれの仕事がある。
そうそう、選抜されたら、【旅団】や【庭師】にって…
いや、今それは良いか、
君は【耳】だね。
情報収集が主な仕事だね。旅人や商人を装い、私達使途の指示で、アチコチ行って貰うよ。
あと、【剣】だがね…
それぞれの組織の中にある、
護衛や、盗賊の排除…
まあ…武力行使の為の、戦闘集団だね。
まあ今、集団ってほどの人数は居ないが…
つまり君は、耳の剣って事だな。
更に詳しい話は、追々ね…
なにせ、きっと、
【目】である君の兄の護衛や手伝いが多くなるだろうからね。
後は早速、明日から訓練に参加して貰うよ。
いつもの神殿の朝の祈祷後、この神殿の入り口に来てくれ。
門番が居るが、印を見せなさい。
そこから約3年程で、
私は見習いを卒業し使途と兄の連絡係として、
また、特異点の情報収集や各国の情勢、戦況、噂話に至るまで、
汎ゆる情報を掻き集めた。
【耳】が集めた情報は、商人に扮した【口】が、他国や他の商人に販売していた。勿論、我々に取って有益な情報以外を。
それが国の、そして組織の資金源の一部であり、本来、余所事の筈のこの戦争の、ある種、当事者でも有った。
【口】は、実は、情報操作が主な仕事だ。
いざこざを煽ったり、納めたり、
勿論、必ず思い通りになる事も有るし、ならない事も有ったが…
隠れ蓑である【西方香辛料商会】は、実際にそれなりの大きさの商売をし、
多額の金銭を得つつ、その販路に幾つかの店舗、拠点を持っていた。
拠点は情報の集積地兼報告の場として機能した。
時々、荒事がある。
時に商人や旅人として、盗賊に狙われたり、
深淵を嗅ぎ回る、謎の組織の一員として狙われたり…
長い時間、特殊な訓練を受けたとは言え、
私個人は、それ程戦闘は得意…とは言えない。
好きでも無いし。
身体だってそれ程大きくも、立派でも無い。
なので、身体的不利は技や毒、特殊な薬でカバーする。
割と卑怯だとは自分でも思う、実際。
なるべく、
戦闘はおろか、喧嘩でさえ避けるようにはしてはいたが、
それでも人生は、時にままならない。
何時もの様に、血で汚れた手を洗いながら、憂鬱な気分に浸る。
こんな事が、神に喜んで貰えるのかと、正しい事だと言えるのかと、
死んでいった仲間ももう、誰も帰らないのに。
その日、何時もの様に、
裏町のケチな情報屋から、まあまあの小銭をまきあげられていた。
嘘臭い情報だったが、何やら、 アーマの連中が、付近の大人を、アチコチ分散して、多方面っから描き集めているようだ…と。
結構な金をバラ撒いていて、
多分、西側の獣人たちとの、大きな戦争の準備では?…だそうだ。
しかし…なんだな、素人なんか大勢集めて、
いよいよヤバいんですかね、アーマは?
情報屋は笑った。
違うな…獣人なんかと揉めてる暇なんて、奴らに有るものか。
ズクの大戦団が、サデヤルのすぐ南に、大きな拠点を造ってる、正に今、最中だ。
当然、アーマはその反対方面の小規模の獣人なんか、とても構ってはおれんだろう…。
しかし何だ?
………待て、
何だ、酷い胸騒ぎがする。
私は商人に化け、一番近い商会を訪ねた。
【口】そこに集められた新しい情報の中には、アーマが大掛かりには、人を集めている様な話は無かった。
だが、一見関係ない様な、有る様な、妙な噂は幾つかあった。
更に、シンタンの近くで新しい特異点も複数見つかっていると…
ガセかな?とも、一瞬過ったが、
待てよ…
何故、今急に人を…?
…妙に、引っ掛るな。
商会に事の顛末、本部への報告を頼み、
返す刀で急いでサデヤルの方向へと、馬を走らせた。
途中、サデヤル近くの村の外れで、偶然別方面から来た
【耳】の仲間と出くわした。
彼はエギラ、実の親戚だ。
彼はもっと北の レマ二村 に居たのだが、
その付近のアチコチで、大量の魔族の子供が攫われたと言う未確認情報を掴み、
その裏付けを取ろうとしていた。どうやらそれにも、アーマが関係していると、一体何故だと。
人と魔族…
そうか…
繋がった。【呪】だ。
星の巡りで、
太陽が消える日も、月が消える日も、あと4〜5年は後だろうと、
使徒の皆は言っていたが…
多分、いや間違いない、戦況の悪化や今の悪い流れを鑑みて…
前倒しで強引に【呪】をやる気だ。
エギラもすぐ、
私もそう思う、そう言って、青い顔で頷いた。
奴らは【呪】で、眠っている女神の半身を無理矢理起こす気だ。
そして、【呪】が発動すれば、天が割れる…
恐らく強制的に、もう一柱の神、
我らが探し求めし…
【深淵に眠りし神】がお目覚めになる可能性が有る…
私とエギラは相談し、
私は、恐らく近くにやって来るであろう【目】達と合流を、
エギラは近い商会と、非常用に使われる魔道具で大至急、本部と仲間達に連絡を…
多分残された時間は少ない…
急ごう。
そう、恐らく、ここだと、
シンタン村の廃神殿が、安全に落ち合えると思う。出来れば、
そこでまた落ち合おう。
そして我々は別れ、
…走った。
そして遂に、
我が神の
その御前に至る。
普通の若人?、それも特別と言った見た目では、無い。
いや不敬だ…
だが判る、特異点に反応する魔道具が、
先程からずっと、今にも壊れそうな位…強く反応している。
こんな事は初めてだ…
そうか、
…遂に始まるのか…




